はじめに
昨今、ブロックチェーンやブロックチェーンを活用した技術が世界的に注目されています。
ブロックチェーンは、ビットコインなど仮想通貨を支える技術として知られていますが、最近では医療や金融など、様々な場面で用いられています。
ブロックチェーンの大きなメリットとして、不正・改ざんが不可能であることが挙げられますが、プライバシーの保護が完全にできないというデメリットもあります。
そこで、プライバシー保護を行うMPC秘密計算と組み合わせることで、ブロックチェーンを安全に使用することができるため、ブロックチェーンとMPC秘密計算を組み合わせた技術を提供する企業が徐々に増えています。
本記事ではMPC秘密計算×ブロックチェーンについて、以下の3セクションで解説します。
- MPC秘密計算・ブロックチェーンとは?
- MPC秘密計算がブロックチェーンにどう役立つの?
- MPC秘密計算×ブロックチェーンを行う企業
MPC秘密計算・ブロックチェーンとは?
秘密計算
秘密計算とは、暗号化したままの状態で計算を実行することであり、データ活用とプライバシー保護の両立を可能にします。
データの統計処理や機械学習などの分析を行う際に、データを秘匿化した状態で扱うことは、従来の技術では不可能でした。
しかし、秘密計算技術を用いることで、秘匿化したままでの計算が可能になるため、セキュリティ水準が飛躍的に高くなります。
秘密計算は、医療・金融・農業などの様々な領域で活用されています。
また、秘密計算の主な手法の1つであるMPC方式を用いた秘密計算を、本記事ではMPC秘密計算と記述します。
MPC(multi-party computation:マルチパーティ計算)とは、複数のサーバー間で通信を行いながら、同じ計算を同時に行う計算技術であり、MPC秘密計算では、秘密分散というデータの秘匿方法と組み合わせて用いられます。
秘密計算やMPC秘密計算については、こちらの記事で詳しく解説しています。
ブロックチェーン
ブロックチェーンとは、改ざん・ハッキング・不正がほぼ不可能な、データの集約システムです。
ブロックチェーンは一種のデータベースでありますが、一般のデータベースとはデータの格納方法が異なります。
一般のデータベースは、たくさんの人がデータの集約・フィルタリング・操作を簡単にできるようにデータを格納します。
一方、ブロックチェーンでは、ネットワーク内で発生した取引の記録を「ブロック(塊)」と呼ばれる単位で格納します。
この取引記録のデータであるブロックに加えて、1つ前の取引で生成されたブロックの内容を示す「ハッシュ値」と呼ばれる情報も格納します。
そして、時系列に繋がっていくブロックの構造が「チェーン(鎖)」として繋がっていくため、ブロックチェーンと呼ばれています。
また、ブロックチェーンには中央集権者がいないため、仮想通貨などの取引データを複数人で管理します。
参加者が取引を行なった時、他の多数の参加者がその取引に関する記録を保持し続けるため、生み出された取引情報が証拠として残り続けます。
つまり、ブロックチェーンは不正や改ざんを許さずに取引の履歴を記録し続けます。
そのため、金融のような高い信用度が求められる分野で活用されています。
MPC秘密計算とブロックチェーンの違い
MPC秘密計算とブロックチェーンの最大の違いは、セキュリティの対象についてです。
MPC秘密計算はデータを暗号化し、そのままの状態で計算を行うことで、データを漏洩から守ります。
一方で、ブロックチェーンは取引の履歴を残すことで、データの不正や改ざんを防ぎます。
以下の表では、両者を比較しています。

また、秘密計算とブロックチェーンの違いについては、こちらの記事で詳しく解説しています。
MPC秘密計算はブロックチェーンにとって、どう役立つの?
ブロックチェーンの特徴の1つとして、データを分散して管理することが挙げられます。
そして、公開された取引情報がブロックとして残り続けるため、本人から個人情報の削除を要求されても、削除することが難しいのです。
もちろん、データは暗号化しているので公開されることはありませんが、チェーンで繋がった複数の参加者に情報が行き渡ってしまう可能性もあります。
そのため、ブロックチェーンでは完全にプライバシーを保護することはできません。
また、EUのGDPR(一般データ保護規則)では、データの利用を同意した後でも、ユーザーが希望すればいつでもデータの利用を停止・削除を要求する権利をユーザーが持つ、と述べています。
しかし、ブロックチェーンはデータの書き換えが難しいため、簡単にデータの利用の停止や削除を行えません。
そこで、ブロックチェーンの弱点を補う技術として注目されているのが、MPC秘密計算です。
先述の通り、MPC秘密計算は複数のサーバーにデータを分けて、データを秘匿化しながら同時に同じ計算を行います。
データは秘匿状態にあるので、データを扱う人であっても内容を知ることはありません。
データを活用しながらプライバシーを保護できるというMPC秘密計算の特徴は、ブロックチェーンに不足しているプライバシーの問題を解決します。
MPC秘密計算×ブロックチェーンを行う企業
ブロックチェーンは世界各国で押し進められていますが、特に中国で盛んに行われています。
中国の国家情報センターは、BSN(ブロックチェーン・サービス・ネットワーク)という国家のブロックチェーンプラットフォームを主導しています。
BSNは安価で、容易にブロックチェーンのネットワークを利用することができます。
そしてBSNは、中小企業・学生などの個人が、発明・イノベーションのためにBSNを使うことによって、ブロックチェーンの急速な開発と幅広い利用を促すことを目的としています。
また、Forbesが発表した世界のブロックチェーン企業トップ50社のうち、6社が中国企業であり、TencentやBaiduなどがランクインしていることから、中国でブロックチェーンが推し進められていることが良くわかります。
(データ引用:https://www.forbes.com/sites/michaeldelcastillo/2021/02/02/blockchain-50/?sh=4c4a4335231c)
本セクションでは、MPC秘密計算×ブロックチェーンを行う中国企業であるARPAとWanglu Techを紹介します。
ARPA
ARPAは中国のベンチャー企業であり、ブロックチェーンベースのプライバシー保護ネットワークを提供しています。
そして、このプライバシー保護ネットワークの安全性をさらに高めるために、MPCを用いています。
また、ARPAが提供するプライバシー保護ネットワークであるARPA Chainは、イーサリアムやEOSなどの既存のブロックチェーンと互換性あるため、使いやすい設計となっています。
実際に、クレジットカードの詐欺防止や、ユーザーに関連のあるデジタル広告の表示システムなどに使われています。
Wangle Tech
Wanglu Techは中国のブロックチェーン企業であり、ブロックチェーン相互運用プラットフォームであるWanchainを提供しています。
WanchainはMPCを使用しており、プライバシーを保護しながらデータを活用することができます。
最近では、中国の国営電力会社であるステートグリッド(国家電網公司)がWanchainを、国内のデータ管理システムに採用することを発表しました。
ステートグリッドは、Wanchainのブロックチェーンテクノロジーを利用して、国内のデータ管理システムをアップグレードすることを目的としています。
まとめ
- 秘密計算とは、暗号化した状態のまま計算を実行することができる技術である
- MPCという手法を用いたMPC秘密計算は、複数のサーバーに分割したデータを秘匿化した状態のまま、同時に同じ計算を行うことで、プライバシーを保護できる
- ブロックチェーンとは、取引情報のデータをブロックとして格納し、その前の取引データもハッシュ値として格納しながら次々と、チェーンのようにデータが繋がっていくデータの格納方法を持つ、データの集約システムである
- 取引情報が公開されているため、不正・改ざんが不可能である一方、完全なプライバシーの保護はできない
- MPC秘密計算とブロックチェーンを組み合わせることで、プライバシーを保護しながらデータを不正や改ざんから守ることができるため、注目されている
- 中国企業のARPAやWangle Techも、MPC秘密計算×ブロックチェーンを行なっている
参考
- https://forkast.news/data-privacy-blockchain-mpc/
- https://digital-shift.jp/flash_news/s_210412_10#item32908
- https://www.nttdata.com/jp/ja/services/blockchain/002/
- https://www.investopedia.com/terms/b/blockchain.asp
- https://www.coindeskjapan.com/53345/
- https://technode.com/2021/03/30/state-grid-to-deploy-wanglu-blockchain-for-data-integration/