ホーム » プライバシーテック » Cookie規制から代替案に再注目!法律に準拠したデジタルマーケティングの救世主たちとは

はじめに

GDPRや改正個人情報保護法により、ユーザーの同意なしに3rd party Cookieを取得することがタブーになりつつある。

3rd party Cookieとは、デジタルマーケティング領域においてユーザーの追跡をする上で必須のIDだった。しかし2022年4月の改正個人情報保護法で一定条件を満たすと「個人関連情報」に含まれることとなり、従来通りのマーケティングができなくなっている。

そこで今回は、Acompanyが独自でリサーチした内容を参考に3rd party Cookieの代替方法について紹介していく。

FLoC

FLoC(Federated Learning of Cohorts)とは、Webサイトに訪れたユーザーのデータをAIが分析して興味関心別にユーザーをグループごとに分けられる技術だ。Cookieの代替技術としてGoogleが開発を2021年から開始していた。

例えば、自動車の情報をよく閲覧しているAさんは自動車グループに分類されるわけだが、グループにはそれぞれIDが付与されている。広告主にこのグループIDを共有することでターゲティングが可能となる仕組みだ。

ユーザーの興味が変化すれば、分類されるグループも変わるため、それに応じて提供されるIDも変わり、表示するネット広告を変化させられる。FLoCはCookieと違って個人ではなくグループベースでのターゲティングとなることから、個人を特定することなく最適な広告配信が可能だ。

しかし、2022年1月突然停止を発表。ITmediaによれば、「FLocもCookieと同様にユーザーを特定できる恐れがある」、「独占禁止法に違反する可能性がある」との声があったようだ。

メリット

  • Cookieのように個人特定されない
  • ユーザーのプライバシーを守れる
  • もとデータ漏洩の心配がない
  • 精度が落ちるもののCookieと同様のリターディングが行える

個人情報を保護しながらも、Cookieと同様の広告配信が行えるのが大きなメリットだといえるだろう。

デメリット

  • GDPRには対応できない可能性がある
  • Safariに対応していない
  • グループへの分類・IDは一定期間で再計算されるためデータを蓄積できずFLoC IDに適切な広告を分析できない
  • データはすべてGoogle保有のため評判が悪い

グループIDをユーザーの絞り込みに使用することもできるため、フィンガープリントなど他のトラッキング技術と組み合わせると、Cookie以上に個人の属性を把握することが可能な点が懸念されていた。

Topics API

Topics APIとは、ユーザーを追跡することなく、ユーザーの興味関心に合わせた広告配信するための技術だ。FLoCの開発停止をしたGoogleが2022年1月、CookieやFLoCに代わる新たな技術として開発すると発表した

https://blog.google/products/chrome/get-know-new-topics-api-privacy-sandbox/)より引用

Topics APIで利用されているのは、Webブラウザに記録されているサイトの閲覧履歴だ。

これらサイト閲覧履歴をベースにトピックを上位5つ選出し、その中からランダムに1つのトピックを決定する。この際、トピック選定はGoogleや他の外部サーバーを介さず、ユーザーのデバイス上で行われる。

広告主はこのトピックを利用することで、トピックに適した広告を配信可能だ。トピックには旅行や自動車、本などがあり、現在は350トピックが提案されているが、今後増やしていくとされている。

Topics APIはトピックのみを広告主へ渡すため、提供する情報量を減らすことができ、FLoCと比較してユーザーの特定がしづらくなる。また、Topics APIの最大の特徴として挙げられるのが、ユーザー自身が情報を管理・閲覧できる点だ。

ユーザーはどのように自分のデータが利用されているか確認できる。Webブラウザの設定によって、トピックの表示や不要なトピックの削除、トピックによる広告表示の完全無効化も可能だ。

Topics APIは現在、Webサイト開発者や広告業界などのステークホルダーで試用される方針となっている。最終的な技術仕様は、フィードバックとトライアルの結果をもとに決定される予定だ。

メリット

  • 個人を特定しにくい
  • Googleや外部企業にデータ流出しない
  • 個人で管理できるため透明性があり把握しやすい

以前Googleが開発していたFLoCと異なり、個人が特定されにくいという理由が最大のメリットと言えるだろう。

デメリット

  • 精度の低下
  • コンテキストとの組み合わせが必須

Topics API単体だと、CookieやFLoCと比べて広告表示精度が低下し、広告のミスマッチが起きる可能性がある。精度を上げるためには、他の情報(コンテキストなど)との組み合わせが必須となってくる。

コンテキスト広告(コンテクスチュアルターゲティング)

コンテクスチュアルターゲティングとは、サイト内に掲載されている文章や単語、画像をAIが識別し、その記事の文脈(コンテキスト)を解析して関連性の高いネット広告を表示するターゲティング手法だ。

ユーザーは閲覧しているページ内容に興味があるという仮説から、ユーザーではなくWebページのコンテンツに着目し、コンテンツに近いジャンルの広告を配信できる。Cookieなどのようにユーザーの行動・閲覧履歴を活用した技術とは異なる仕組みだ。

コンテキスト広告の仕組み自体は2000年頃に登場し、コンテンツ連動広告として存在していた。しかしCookieの台頭により衰退。その後、近年脱Cookieが進む中で改めて注目を集めるようになってきている。

例えば朝日新聞社は2021年、「朝日新聞デジタル」などのデジタル媒体で、Integral Ad Scienceと共同開発した「コンテクスチュアルターゲティング」の提供を開始することを発表した。同時に検証テストも発表しており、ノンターゲッティングで配信した場合よりも広告のCTR(クリック率)は152~114%、ランディングページから広告主の商品ページへの遷移率は231%、ライディングページのスクロール率がそれぞれ上昇したとしている。

メリット

  • 行動・閲覧履歴などの個人データは不要
  • 関連性など見極められるためブランドイメージを維持できる
  • ユーザーが興味をひく広告をスムーズに表示できる
  • 動画・音声解析もできるため動画内広告にも有効
  • ターゲットユーザーが閲覧しそうな情報を掲載しているサイトを探して広告表示できる

デメリット

  • コンテキスト広告だけでは効果測定を行えない
  • 広告表示に活用できるのはWebサイトのデータのみ
  • 広告表示できるのはサイト訪問者数のみ

コンテキスト広告だけだと、広告表示に活用できるデータはWebサイト上のデータに限定されるため、自社データとの紐づけなどは行えない。また、サイト訪問者の中から最適なユーザーを選ぶに過ぎないため、表示できるユーザーが限定的で、ユーザーの確保ができないのもコンテクスチュアルターゲティングの弱点と考えられる。

(共通)IDソリューション

IDソリューションとは、3rd party Cookieを利用せず、ユーザー行動履歴を分析する手法だ。

このIDソリューションは、CMP(同意管理プラットフォーム)で読み取った収集された情報は1st party Cookieに保存され、IDプロバイダーに渡される。ユーザーの同意取得許可を得られたところで該当ユーザーのIDが作成され、1st party Cookieに保存でき、1st party Cookieをベースとした広告専用の共有IDに結び付けるという仕組みだ。

また共有IDはIDを結ぶことで、他のデジタルパートナーも同じ共有IDによってアクセスが可能となる。

一方、IDソリューションは3rd party Cookieを利用していないものの、1st party Cookieには大きく依存する点は意識しておく必要があるかもしれない。

IDソリューションの活用事例を見ていくと、インティメート・マージャが2021年8月に発表した共有IDソリューション「IM-UID」を活用した新広告プラン「IMポストCookieアドネットワーク」がある。IDソリューションを利用した広告配信プランで、提供前に業界問わず10社が活用したところ、ターゲティング広告の平均リサーチ数よりも3倍程度リーチできている他、CPA(顧客獲得単価)を平均28%削減することにも成功しているという。

メリット

  • 許諾を得ていれば合法であり問題がない
  • オフラインデータもオンラインのデータとして活用可能
  • 他のCookie代替方法よりもリーチ数が多く、ユーザー数を確保できる

デメリット

  • Googleには対応していない
  • IDの取得・共有にはユーザーの許可が必要
  • 制約が多く上手くターゲティングできない可能性がある

GoogleはIDソリューションの不支持を表明しており、対応していない。また、IDの取得・共有にはユーザーの許可やサイト上でメールアドレスを入力が必須となる。

このように制約が多いことから、取得できるデータ量に制限が生まれやすく上手くターゲティングデータできなかったり、情報収集のコストが増加したりする可能性がある。

データクリーンルーム

データクリーンルームとは、データの統合や分析といった目的のために、個人を特定しない形に匿名化した情報を限られた人だけがアクセス・閲覧できるクラウド環境のことだ。

プラットフォームに広告主が所持する1st party Cookie(顧客データ)を入力することで、プラットフォームを提供している企業が持つデータを用いて顧客分析や広告配信用のセグメントの作成が行える。

2021年10月、電通と電通デジタルがTwitter Japanと共同で構築した「Twitter Data Hub Omusubi(Omusubi)」を提供開始すると発表。Omusubiはデータクリーンルームの仕組みを活用したサービスで、日経XTECHによれば、Twitterの1st party Cookieと電通グループの2ndt party Cookieをかけ合わせた分析が行える。

https://www.dentsu.co.jp/news/release/2021/1028-010455.html)より引用

メリット

  • プラットフォームという巨大な経済圏を活用してマーケティングが行える
  • 外部データとかけ合わせることで自社データの不足分を補完して分析できる
  • プラットフォーマーの属性データ使用が可能
  • 長期間のデータ蓄積が可能
  • 個人の特定ができない

デメリット

  • UIが用意されていないため、誰もが簡単に使用できない
  • 個人の特定を防止しなければならず、様々な制約がある
  • データクリーンルームを運営している企業や広告主が提供するデータ提供を渋った場合、分析の質にムラが生まれる

広告効果計測ソリューション(コンバージョンAPI)

広告効果計測ソリューション(コンバージョンAPI)とは、CookieではなくFirst party dataを活用して計測をする技術だ。顧客がコンバージョンした時に入力したメールアドレスや電話番号などの顧客データを暗号化し、広告主のサーバー経由でFacebookのシステムに送信する仕組みとなっている。

これにより個人情報を保護しながら、Cookie制限の影響を受けることなく広告配信や計測が可能だ。ただ、コンバージョンAPIはMetaシステムのみで利用できる計測方法のため、Metaが提供するFacebookやInstagram広告のみにしか利用できない。

実際、TSIホールディングスはCookie規制に伴う最適化効率の低下に伴ってコンバージョンAPIを導入したとのレポートを出している。同レポートによればコンバージョンAPIの導入によって、表示回数やクリック率、売上などすべての数値に改善が見られたという。現在連携しているのはECの売上データのみだが、今後はオフラインデータとも連携して広告の最適化を模索しているようだ。

メリット

  • Cookie利用制限の影響を受けないため計測精度を保てる
  • サーバーから直接データ取得できるため、接続問題などの影響を受けにくい
  • 様々なデータとの連携が可能となり、最適化を図れる

デメリット

  • ユーザーの許諾や社内の法務的調整が必要
  • 導入コストが高い
  • 実装難易度が高い

まとめ

  • GDPRや改正個人情報保護法によってユーザーの同意がないと3rd party Cookieを取得できなくなっておりCookieに代わる技術導入が必要となってきている
  • GoogleはFLoC開発を停止し、FLoCよりも個人が特定されにくいTopics APIの開発を新たに進めている
  • コンテキスト広告はWebページのコンテンツに着目しており、ユーザー情報を必要としない
  • IDソリューションは共有IDを活用した手法だが、1st party Cookieに大きく依存しておりCookieをまったく使用しない手法ではない
  • データクリーンルームは外部データを活用できるため自社データの不足分を補完しながらデータ分析が可能だが、分析の質は提供するデータ次第に左右される
  • コンバージョンAPIはCookieを利用することなく、従来どおりの広告配信・計測が可能だが利用はMeta・Instagram広告に限定される。

参考文献

Google、脱Cookie技術「FLoC」開発を停止し、新たな「Topics」を発表

Topics API

コンテクスチュアルターゲティング 提供を開始

共通IDソリューション「IM-UID」を活用した新広告プラン「IMポストCookieアドネットワーク」を提供開始 ~3rd Party Cookieに依存せずターゲティング広告配信が可能に~

電通らがTwitterとデータクリーンルーム構築、クッキーを使わずにデータ連携

デジタル・ディテール: コンバージョンAPIで顧客を詳しく把握する

TSIホールディングスの取り組みから学ぶ、CDP×Facebook「コンバージョンAPI」活用