信用スコアとは?プライバシーにも配慮しなければいけない理由を解説

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投稿者:編集部
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はじめに

「ブラック・ミラー」というドラマをご存じだろうか。

ブラック・ミラーはNetflixで人気のSFドラマシリーズだ。2016年に公開されたシーズン3の第1話「ランク社会(Nosedive)」は当時、大きな話題となった。

この仮想のランク社会では、人々を0~5点でスコア化・ランク付けされた世界の人間模様を描いている。

ランクが急落すれば、生活が困難になるペナルティが待っていることから、ランク社会の住人はスコアを維持したり、上げたりするために必死となっているわけだが、実は遠い未来の話ではない。

というのも、様々な個人データをもとに個人の信用度を数値化・可視化し、ランク付けする**「信用スコア」**が既に登場し、中国・アメリカを中心に普及しているからだ。

また、信用スコアを根幹とした信用スコアリングサービスでは、スコアの高さによって受けられる優遇も変化する。信用スコアリングサービスによって、我々の世界もランク社会のようなスコアに支配される世界となるのだろうか。

今回は、信用スコアリングサービスの概要やメリット・デメリット、信用スコア事業に取り組む企業について解説していく。

そもそも「信用スコア」とは?

信用スコアリングサービスを理解するためには、まず「信用スコア」について理解しておかなければならない。

信用スコアとは、「個人の信用度」をAI分析によって数値化・可視化したものだ。信用スコア数値が高いほど信頼度が高い人であることを意味する。

信用情報との違い

従来、信用度の指針となっていたのは信用情報だ。信用情報を照会することで、クレジットカードの発行可否やローン審査などの判断がなされていた。

人の信用度を表すという点では、信用スコアと信用情報は同じだ。では、両者は何が違うのか。

両者の違いとしては主に以下2つが挙げられるだろう。

  • 収集する情報量
  • 信用情報の把握有無

信用情報に集約されているのは年収や資産、借入状況、返済履歴といった情報のみ。一方、信用スコアの場合は前述の情報に加えて、Webサイトの行動・購買履歴やSNS使用履歴、決済アプリの利用履歴などのセンシティブな情報も加味されている。

また、信用スコアは信用度が数値化されて分かりやすい他、どの程度の数値なのか自分でスコアを確認できる。一方、信用情報は信用情報機関とローン会社間でやりとりされるため、閉鎖的で信用スコアのように把握できないといった違いがある。

「信用スコアリングサービス」とは?

信用スコアリングサービスとは、サービス運営企業が利用者に関するデータを収集・分析によって算出した信用スコアを提携企業に提供するサービスだ。

提供された信用スコアは、主にクレジットカードの発行可否やローン審査、融資の判断といった金融取引関係に利用されている他、ショッピングサイトやフリマアプリの安全性向上にも活用されている。

信用スコアリングサービスの仕組み

簡単ではあるが、信用スコアリングサービスの仕組みについてみていこう。信用スコアが実際に活用されるまでの流れは以下のとおり。

  • 様々なユーザー情報をもとにAIが個人の信用スコアを算出
  • 信用スコアリングサービスの運営企業が提携企業に信用スコアを提供
  • 提携企業が提供された信用スコアを利活用

前述のとおり、信用スコアの算出には年収や資産、借入状況、返済履歴、Webサイトの行動・購買履歴やSNS使用履歴、決済アプリの利用履歴などのセンシティブ情報が活用される。

したがって、信用情報よりも多角的かつ非常に詳細な分析が可能だ。

信用スコアリングサービスのメリット

信用スコアリングサービスのメリットとしては次の4つが挙げられる。

  • 審査結果に納得できる
  • 正確な与信審査が可能
  • サービス・取引の安全性を担保できる
  • 様々な優遇を受けられる

前述のとおり、信用スコアは信用情報と違って、自分がどの程度の信用度なのかを把握することが可能だ。したがって、ローンなどの審査結果に納得できるといったメリットがある。

信用スコアは様々な情報を収集・AI分析によって導き出されるため、判断材料が限定的だった従来の与信審査よりも信用力を正確に予測可能だ。

サービス・取引の安全性を担保できるのも信用スコアリングサービスの魅力といえるだろう。

例えば、フリマアプリに信用スコアを組み合わせてみよう。

フリマアプリにおいて取引相手の信頼度を把握する基準は、出品者やユーザーを評価する口コミ機能だ。口コミの評価によって悪質なユーザーや出品者を排除する仕組みとなっているが、これらの評価はあくまでも個人の感想に過ぎない。

この不安定な評価の信頼性を担保する目的で信用スコアが導入されればどうだろうか。ユーザーや出品者の信頼度が評価に反映されるため、サービスの安全性向上が期待できる。

また、サービスによってはスコアの高さに応じて、ローン額の増額や割引など様々な優遇が受けられる。

以上の点から信用スコアを落としてしまうと様々な支障がでることは間違いない。したがって、ユーザーが自身のスコアを下げまいと不正を行わないようにするため、不正を未然に防止することにもつながるだろう。

信用スコアリングサービスのデメリット

では、デメリットはどのようなものがあるのだろうか。ここでは5つのデメリットを紹介する。

  • AI分析によってスコア算出ロジックが分からない「ブラックボックス問題」によって起こる国民の不満
  • ランク差による格差の拡大
  • 膨大な個人データ収集・蓄積によって起きる情報漏洩リスク
  • スコアばかり気にした結果、行動を差し控える「萎縮効果」による自由や社会の多様性喪失
  • スコア弱者やスコア拒否者によるバーチャル・スラムと呼ばれる新しいスラムの形成リスク

特に問題となっているのが、プライバシーの侵害が示唆されている点だ。

前述のとおり、信用スコアを算出するためには、Webサイトの行動・購買履歴やSNS使用履歴、決済アプリの利用履歴などのセンシティブな情報も収集し、分析する。

スコア算出過程では、ビッグデータとAIによって個人の性質を予測・推測というプロセスに深く関与するため、これがプライバシー侵害ではないかといわれているわけだ。

総務省が発表した「平成30年版情報通信白書」によれば、信用スコアリングサービスが広く普及している中国でも様々なデータの集約は個人のプライバシー侵害ではないかという懸念の声も上がっている。

そのため、信用スコアリングサービスを展開する場合、個人情報・プライバシー保護の意識を強く持っておかなければならない。

海外ではすでに信用スコアリングサービスの活用が進んでいる

しかしながら、信用スコアリングサービスの活用は中国やアメリカといった海外ですでに進んでいる。特に中国では社会インフラ化するほど、信用スコアリングサービスは社会・経済の基盤となっている。

ここでは中国とアメリカで展開している代表的な信用スコアリングサービスについて見ていこう。

中国で普及している信用サービス機構「芝麻信用」

「芝麻信用」とは、中国アリババグループの関連企業アント・フィナンシャルサービスグループ(杭州市)がはじめた信用スコアリングサービスだ。

2004年に登場した決済サービス「アリペイ」の機能として、2015年にサービスが開始された。アリペイのユーザー数は世界で約12億人ともいわれ、「芝麻信用」はアリペイに蓄積された膨大なデータを分析し、350~950点の範囲で信用スコアを算出する。

分析に活用するデータとしては、アリペイの決済情報をはじめ、学歴や職歴、SNS上の人間関係、マイカー・住宅といった資産状況など幅広い。

高スコアの場合、優遇金利でローンが組めたり、サービス利用時に必要な保証金を免除したりなどの他、出国手続きが簡素化されたりするなどの優遇が受けられるそうだ。

出国手続きの簡素化は、信用スコアが社会インフラとなっている中国ならではの特典といえるだろう。

アメリカの代表的な信用スコアサービス「FICOスコア」

「FICOスコア」とはフェアアイザック社(カリフォルニア州)が提供している信用スコアリングサービスだ。

「FICOスコア」は三大信用調査機関である「Experian( アイルランド)」「Equifax(ジョージア州)」「TransUnion(イリノイ州)」が採用しており、信用スコアは300~850点の範囲で算出される。

また、スコア点数によって以下4ステータスに分類されるのも特徴だ。

「FICOスコア」で利用されるデータは、返済履歴や借入残高・利用率、信用履歴の長さ、クレジットの種類・構成などで、性別や年齢などの個人データは使用されないのが大きな特徴だ。

日本における信用スコアリングサービスの課題

海外に追随しようと日本でも信用スコアリングサービスを採用しようとする動きがでている。しかし、信用スコアリングサービスを活用するには課題が多く、思っている以上に普及できていないのが現状だ。

どのような課題があるのか簡単にみていこう。

中国の信用スコアリングサービス市場を一手に担っている「芝麻信用」と違い、日本は複数の信用スコアリングサービスが乱立している状態だ。

また、個人融資向けやサービスに活かすためなど目的もバラバラのため、データの蓄積量が少なく信用スコアの信頼性が担保されていないといった課題がある。

また、改正個人情報保護法に準拠しなければならないため、情報収集が難しいことも課題の1つだ。改正個人情報保護法上、個人データの第三者提供は本人の同意を得なければならない。

信用スコアリングサービスは特定の個人を識別して個人データを取り扱うことが多いため実務上、本人の同意がなければ信用スコアの提供を行わない仕様にしなければならないだろう。

本人の同意取得可否によって提供できる信用スコアが限られてしまうため、1部サービスで利活用するのは可能なものの、中国のように信用スコアを社会インフラにまで普及させるのは難しいのが現状だ。

日本で信用スコアリングサービスを展開する代表的な企業

日本で信用スコアリングサービスを展開する代表的な企業は次のとおりだ。

  • J.Score
  • セカンドサイド
  • LINE Credit
  • ドコモスコア

それぞれ詳しくみていこう。

J.Score

みずほ銀行とソフトバンクが設立したJ.Scoreは、信用スコアリングサービス「Fintech」を展開している。

2017年に信用スコアを活用した個人向け融資「AIスコア・レンディング」の提供を開始すると、2019年11月にはキャリアの選択肢を広げるための副業資金の取り扱いも開始。

2018年からはスコアランクに応じて特典を受けられる「AIスコア・リワード」と呼ばれる提供も行っている。

スコアのもととなるデータとしては、仕事や住居、性格、日常行動がメインだが、アプリへの記録によって運動や学習、お金に関するデータもスコアとして反映される仕組みとなっている。

セカンドサイド

セカンドサイトアナリティカは三井住友海上火災保険と共同で信用スコアリングサービス「個人向け自動車ローン等の審査モデル」を構築する予定だ

現在、ローンやリース、サブスクリプションなど、自動車の利用方法は多様化しており、ファイナンス需要も増加するといわれている。

一方、与信審査が通過しにくいフリースランスなどの人口も増加しており、従来の審査モデルでは対応に限界があるのが実情だ。このような状況もあって、信用スコアを活用した新たなローン審査モデルの構築を目指していく。

今後はGlobal Mobility Serviceや自動車販売事業者と連携し、審査モデルの実証を予定しているそうだ。

LINE Credit

LINE Creditは「日常をちょっと豊かに」をテーマに、「LINE Score」と呼ばれる信用スコアリングサービスを展開している。

ライフスタイルに関する15の質問への回答内容とLINEサービスの利用状況をもとに100~1,000の範囲内でスコアを算出する。スコアはLINE決済サービスなどの利用で変化し、スコアに応じて特典やキャンペーンが受けられる仕組みだ。

また、少額借入が可能な個人向け無担保ローンサービス「LINE Pocket Money」と連携しており、スコアに応じて一人ひとりに適した貸付利率や利用可能額も変動する。

ドコモスコア

NTTドコモは金融機関向けの信用スコアリングサービス「ドコモスコアリング」を展開している。

融資サービスを申し込んだドコモユーザーを対象に、携帯料金の支払履歴やドコモ回線の利用期間、各コンテンツ・サービスの利用状況などのデータから信用スコアを算出し、金融機関に提供する仕組みだ。

ITmedia NEWSによれば、信用スコアの算出・提供はユーザーの同意を得た上で行われる他、スコアは融資サービスの手続きのみで活用するとしており、プライバシー保護を徹底しているといえるだろう。

まとめ

  • 信用スコアは様々なデータをもとに個人の信用度を数値化・可視化したもの。
  • 信用スコアリングサービスはサービス運営企業が算出した信用スコアを提携企業に提供するサービス。提供された信用スコアは金融取引関係など様々なシーンで活用されている。
  • 日本での普及ではこれからだが、中国やアメリカといった海外では活用が進んでおり、中国ではすでに社会インフラ化するほど普及している。
  • 多角的かつ非常に詳細な分析によって個人の信用度を把握できる一方、膨大な個人データを収集・蓄積することになるため、プライバシー侵害ではないかという声も上がってきている。
  • プライバシー意識が強い日本では信用スコアリングサービス普及への課題は多い。