はじめに
「ダークパターン」への忌避感が強まり、世界中で規制強化が進んでいる。タークパターンとは、Webデザインやサイト表記などを利用してユーザーに意図しない購入・登録を促す手法のことだ。
ユーザーを騙すつもりがなかったとしても、ダークパターンに及ぼす影響は非常に大きいのが実情だ。そのため、サイトの仕様がダークパターンに該当していないかしっかりと確認しなければならない。
では、どのような手法がダークパターンに該当し、どのような問題とリスクがあるのだろうか。また、国内のダークパターンの使用と規制はどのような状態になっているのだろうか。
本記事では、ダークパターンの概要とどのような問題が発生しているのかを解説していく。
ダークパターンとは
「ダークパターン(Dark pattern)」とは、Webデザインやサイト表記を利用し、ユーザーが不利な決定をするように誘導させて意図しない購入・登録を促す手法だ。この概念がはじめて登場したのは2010年。ユーザーエクスペリエンス専門家で、認知科学博士号を取得しているイギリスのハリー・ブリグナル氏がユーザーを欺く目的で設計されたユーザーインターフェースをダークパターンと命名し、はじめてその概念が提唱された。
ブリグナル氏は自身が立ち上げたWebサイト「Darkpatterns.org」で、ダークパターンの概念を次のように定義している。
ダークパターンとは、ユーザーを騙して何かを購入させたり、登録させたりするなど、意図しないことを実行させる、Webサイトやアプリで使われているトリックのこと
引用:SEBook「意図しない登録や購入を促す「ダークパターン」はリスクだらけ、正しく理解してその誘惑から脱却するために」
ダークパターンの種類
申し込みつもりがないサービスに申し込ませたり、解約メニューを分かりづらい場所に設置したりするなど、ユーザーを欺くものがダークパターンだが、ダークパターンにも様々な種類がある。ここではよく紹介される7つを見ていく。
こっそり(Sneaking)
「こっそり(Sneaking)」とは、ユーザーの同意を得ていない商品を紛れ込ませたり、無料試供品と謳って定期契約であることを隠したりする手法だ。
商品を注文する際、説明せずにオプション品が自動で選択されている、初月無料と宣伝しておきながら実は定期契約だったというケースがこっそりに該当する。
また、悪質なWebサイトの場合、意図的に内訳を隠して、「詳細確認」などのボタンをクリックしなければ最後まで確認できないようにサイト設計されているものもあるようだ。
緊急(Urgency)
「緊急(Urgency)」とは、事実とは異なる期間を表示させて、ユーザーを焦らせて、購入を催促させる手法だ。
例えば、Webサイトで「今日でセール終了」といった表示をするとしよう。本当のセールス情報を伝えているのであれば、ユーザーの手助けとなるため、問題ない。
しかし、実際にセールス期間が開示されておらず、焦らせたり、誤認させたりして購入を催促させる目的で表示する場合は、消費者を欺く行為に該当するため、ダークパターンとなる。
誘導(Misdirection)
「誘導(Misdirection)」とは、デザインや文章などを利用し、意図した選択をユーザーがするように誘導させる手法だ。
例えば、グレーアウトのデザインにして選択できないように見せたり、「私は購読しないことを希望しません」とユーザーが勘違いしたりするような案内が誘導に該当する。
また、ユーザーの同意を取得するポップアップにおいて、拒否を選択する文言を「いいえ、私は定価で購入することを望みます」といった表記にして、ユーザーの感情に訴求し「はい」を選択するように誘導する手法もある。
社会的証明(Social proof)
「社会的証明(Social proof)」とは、他人の行動を参考に人気のある商品だと勘違いさせて、ユーザーに購入させる手法だ。
実在するユーザーのレビューを紹介することは、ダークパターンには該当しない。
ただし、出自不明なユーザーのレビューを記載して人気があるように見せたり、多くのユーザーが閲覧してお気に入り登録しているように見せかけたりするなどは、ダークパターンの社会的証明に該当する。
また、実際にあるレビューでも、自社にとって都合が良い意見だけをつなぎ合わせてしまうと、実在しないレビューと見なされ、ダークパターンとなる可能性があるため、注意が必要だ。
希少性(Scarcity)
「希少性(Scarcity)」とは、商品の希少性を強調して、ユーザーに購入を催促させる手法だ。本当に希少性が高く、品切れが頻発する商品であれば、在庫状況の表示はユーザーにとって有用な情報となる。
しかし、上記のようなユーザー心理を悪用し、不当な目的でユーザーの購入を促進するために表示している場合はダークパターンに該当する。
障害物(Obstruction)
「障害物(Obstruction)」とは、契約・登録の解除やキャンセルといった行動に対して、障害を設けてユーザーの行動を妨げる手法のことだ。
サブスクリプションの契約解除メニューの場所を分かりづらくしたり、解約前に数ページにわたるアンケートに回答しないと契約解除手続きができなかったりする場合が該当する。
また、解約する際はカスタマーサポートへの電話およびメールが必須であるにもかかわらず、中々対応してくれないというケースもある。
強制(Forced Action)
「強制(Forced Action)」とは、ユーザーが希望している行動をするために、関係のない条件を設けてユーザーに強制させる手法のことだ。
利用規約に合意したら自動でメルマガ配信を強制する、商品を閲覧するだけにもかかわらず個人情報の入力を促してアカウント作成を強制するといったケースが該当する。
ここで注意しないといけないのは、会員登録が不要コンテンツで過度にユーザー情報を収集したり、選択肢を与えずに合意を強制したりするのがダークパターンに該当するという点だ。
ファンクラブなどの会員向けコンテンツのように、閲覧に際して登録が必要なものは自然なことであるため、当然ダークパターンには該当しない。
日本国内におけるダークパターンの実情
ダークパターンは日本国内のサイトでも多く使用されている。
後述しているが、日本国内の主要サイト6割でダークパターンが確認されたとも報じられており、日頃インターネット通販サイトを使用する現代の日本人にも身近な手法だ。
ここでは、日本国内におけるダークパターンの実情についてみていく。
ダークパターンの相談件数
ダークパターンの相談件数は年々増加傾向にあるのが現状だ。消費者庁が公表している「詐欺的な定期購入商法をめぐる状況」によると、定期購入に関する消費生活相談件数は、2020年には約56,000件だった。
相談件数が約4,100件だった2015年の約14倍、44,000件だった2019年よりも約26%も増加している。また、2020年の相談件数のうち9割以上はインターネット通販によるものだったそうだ。
経済産業省が取りまとめた「電子商取引に関する市場調査の結果」によれば、消費者向け電子商取引(BtoC-EC)市場規模は、約13兆7,000億円だったに2015年に対し、2021年は約20兆6,950億円に増加している。
新型コロナウイルスの流行によって、ECサイト化およびECサイト利用率が拡大していく中、ダークパターンの相談件数は今後も増加していくことが予想されるだろう。
日本国内サイトの6割がダークパターン
欧米ではダークパターンの規制が進んでおり、EUでは同意欄の事前チェックがGDPRに抵触する恐れがある他、アメリカ・カリフォルニア州では解約手続きなどでダークパターンが禁止されている。
しかし、国内のダークパターン規制は海外と比較して進んでおらず、企業や行政の対応が遅れているのが現状だ。プリンストン大学が2019年にアメリカの約1万1,000サイトを調査したところ、ダークパターンの利用率は11%だったそうだ。
一方、日本経済新聞が公開した「消費者操る『ダークパターン』国内サイト6割該当」での調査によれば、2020年12月に国内の消費者向け主要100サイトを対象にダークパターンの利用状況を調査した結果、全体の約6割にあたる62サイトでダークパターンが確認された。
両者の調査方法は異なるものの、調査方法の違いを差し引いても、日本のダークパターン利用率は非常に高い状況だといえるだろう。
ダークパターンの問題とリスク
ダークパターンを使用することで、少しでも多くの利益を上げたり、メルマガを購読させて利益につなげたりしようとしている。特に起業やサービス立ち上げ直後はビジネスを軌道に乗せたいという思惑からダークパターンが使用される傾向に強い。
しかし、UXコンサルティング企業であるニールセン・ノーマン・グループのホア・ロレンジャー氏は、アメリカのFast Company誌の中でダークパターンを使用するリスクを以下のように述べている。
企業がダークパターンから得られる短期的な利益は、長期的には失われる
引用:SEBook「意図しない登録や購入を促す「ダークパターン」はリスクだらけ、正しく理解してその誘惑から脱却するために」
ダークパターンによって売上がアップすれば、数字的にはビジネスが成長しているといえる。ただし、数値には見えないところで悪影響を及ぼし、長期的な売上につなげる機会が失われているということだ。
ダークパターンが及ぼす悪影響は大きく分けて次の9つに分類される。

ダークパターンを使用するということは、こういったリスクを絶えず生み出している状態というわけだ。返品やクレーム対応はコストさえかければ解決可能だが、失った信頼を取り戻すことはできない。
ダークパターンに依存した危険性を、ブリグナル氏も「Darkpatterns.org」で、次のように警告している。
より優れたエクスペリエンスを提供する競合他社が現れるのは時間の問題です。もしあなたのビジネスがダークパターンに依存しているなら、それは破壊される可能性があることを意味します
引用:SEBook「意図しない登録や購入を促す「ダークパターン」はリスクだらけ、正しく理解してその誘惑から脱却するために」
日本国内におけるダークパターンの規制
「日本国内サイトの6割がダークパターン」の項でも触れたとおり、海外と比較して日本国内のダークパターンの規制は遅れている。しかし、2021年6月に特定商取引法が改正され、2022年6月に改正特定商取引法が施行された。
テーマから大きく逸れるため、詳細な説明は割愛するが、今回の改正特定商取引法ではダークパターンの「こっそり(Sneaking)」つまり、定期購入でないと誤認するような表示への規制が特に強化されている。
前述のとおり、ダークパターンを使用するリスクは非常に高く、規制自体も世界中で強化されている。
国内の規制も今後強化されることが予想されることから、改正特定商取引法の規制強化された部分だけ対応すれば問題ないというわけではないことを理解しておく必要があるだろう。
まとめ
- 「ダークパターン」とは、Webデザインやサイト表記を利用して、ユーザーが不利な決定をするように誘導させる手法のことだ。
- ダークパターンには大きく分けて7つの種類がある
- 日本国内でもダークパターンの使用は横行しており、相談件数は増加の一途を辿っている他、日本国内主要サイトの約6割でダークパターンの使用が確認されている
- 短期的な利益を上げられるものの、ダークパターンが及ぼす悪影響は非常に大きい
- 海外と比較すると日本のダークパターンの規制は遅れていたが、2022年6月に施行した改正特定商取引法によってようやく規制が強化された
参考文献
Webサイトのダークパターンとは?7つの分類と事例、注意点を解説