はじめに
本記事では、完全準同型暗号(FHE)に基づいた秘密計算に対する企業・研究機関・大学の研究チームの取り組みをまとめています。
完全準同型暗号(FHE)の概要についてはこちらの記事で解説しています。
海外(五十音順)
IBM(アメリカ)
IBMの研究者が2009年にFHEを実現する方法を発表してから、FHEの研究において世界をリードしているIBMは「FHEツールキット」というツールキットを開発しました。
このツールキットには、過去にIBMが開発した「HELib」というFHEのライブラリを使用されているため、今まで実装が困難とされてきたFHEを開発者が簡単に組み込むことができます。
2020年12月現在、iOS・Mac OS・ Linux版のツールキットが公開されており、医療業界や金融業界における応用が期待されています。
CRYPTO LAB(韓国)
CRYPTO LAB(크립토랩)の代表であるソウル大学のチョンジョンフィ教授らは、FHEのオープンソースライブラリである「HeaAn ステータス」を開発しました。
チョン教授らは、HeaAnに小数点を切り捨てる近似概念を取り入れることによって、演算時間を大幅に削減することに成功しました。
また最近では、コリアクレジットビュー(KCB)・国民年金公団などと協力して、KCBのクレジットカード情報と国民年金加入者の情報を暗号化したまま結合・計算することに成功し、他の分野での商用化も進められています。
Microsoft(アメリカ)
Microsoftが開発した「Microsoft SEAL」は、FHEを専門家・非専門家の両者が使いやすい形で利用できるように作られたライブラリです。
また、Microsoft SEALはMIT(マサチューセッツ工科大学)がライセンスを保有するオープンソースライブラリであり、BFV形式とCKKS形式の2つの異なるスキームを持つため用途によって使い分けることが可能です。
PALISADEチーム(多国籍)
「PALISADE」はニュージャージー工科大学・Duality Technologies・BBN Technologies・MIT・カリフォルニア大学サンディエゴ校などのの開発者が、DARPA(アメリカ国防高等研究計画局)などによる資金提供を受けて共同で開発したオープンソースライブラリです。
BFV・BGV・CKKS・FHEW形式など多様なスキームを持ち、広く利用されています。
国内(五十音順)
EAGLYS(東京都)
EAGLYSが開発した「DataArmor® Gate DB」は、データを暗号化したまま透過的にデータベース操作ができる、データベース向けの秘密計算プロキシソフトウェアであり、EAGLYSが開発している「DataArmor」シリーズの製品の第一弾です。
また、EAGLYSは東芝との協業検討を開始しており、製品であるDataArmor® Gate DBと東芝のビッグデータベースである「GridDB」との製品連携を進めています。
産業技術総合研究所(東京都)
産業技術総合研究所(AIST)の研究チームは、FHEの高効率化・高信頼化を目指して高機能暗号の研究開発を行っています。
平文空間の拡張技術の実現による暗号長文の削減・解読可能な鍵長の限界を特定を実現し、FHEの実利化を進めています。
また、加法準同型暗号によるシステム設計も行っており、IoT社会における高機能暗号の応用が考えられています。
筑波大学(茨城県)
筑波大学の佐久間淳教授らの研究チームはFHEを用いて秘密計算を行う手法を構築しました。
FHEを用いた効率の良い演算のためのアルゴリズムと、高精度の演算を暗号化したまま行う演算方法を開発し、従来より速いスピードでのデータ解析を可能にしました。
遺伝子データや症例データなどの医療方面への応用が考えらえれており、2018年に実証実験が行われました。
実証実験は、筑波大学と情報通信研究機構(NICT)が三重大学の山本芳司教授の協力のもと、医療データを暗号化したまま解析することに成功しました。
NICTが過去に他の研究チームと共同で開発した「まぜるな危険準同型暗号」という暗号方式を用いて行われました。
このことから、4500名程度のデータを1分弱で暗号化・解析できることを確認し、新たな診療方法や治療法の開発に繋がるとされ、活用が期待されています。
まとめ
完全準同型暗号(FHE)に基づいた秘密計算に対する企業・研究機関・大学の研究チームの取り組みについて概要をまとめました。
- 海外: IBM、CRYPTO LAB、 Microsoft、 PALISADEチーム
- 国内: EAGLYS、 産業技術総合研究所、筑波大学