ジオターゲティング広告の「個人情報」とは

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投稿者:編集部
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誰がどこにいるのか把握したいーー。位置情報を活用した広告「ジオターゲティング」や、タクシーやバスなどの運行ルートの最適化など、位置情報を把握することはさまざまなメリットがあります。日本経済新聞によれば、電通とNTTドコモが共同出資して立ち上げたLive Boardは、NTTドコモが持つスマホの位置情報を活用し、ビル壁面や東京メトロ、小田急電鉄の構内など全国5,000を超えるデジタルサイネージに発信できる仕組みを持っています。この結果、最適なタイミングでターゲット層にアプローチできるリアルな広告として注目を集めています。

しかしこの位置情報を活用した顧客へのアプローチ方法は、プライバシーデータ利活用の観点から注意が必要です。今回は位置情報を活用したターゲティング広告の具体例や、どの場合においてプライバシデータの活用に注意しなければいけないのか、位置情報に関する法規制などを見ていきます。

  • 位置情報を利用したターゲティング広告
  • 位置情報とはなにか
  • 位置情報を活用する上での注意点とは

位置情報を利用したターゲティング広告

GPSやWi-Fiの普及で、「いつ」「どこで」「誰が」「何をしているのか」把握できるようになっています。これら大量のデータを利用した位置情報広告やジオターゲティング広告などといったものがすでに世の中には浸透しています。しかし、位置情報広告やジオターゲティング広告に必要となるデータは「個人情報」に該当する場合があります。

Live Boardの事例

まずは、日本経済新聞で紹介されたLive Boardの事例について見ていきましょう。同社では、掲載期間・配信量を自由にコントロールする広告運営を行なっています。この広告は、複数の広告をネットワークに繋ぐことで広告の配信を自由化したものとなります。

Live Board HPから引用

自由に配信する広告を操作が可能なことから同社は、NTTドコモの持つ位置情報と組み合わせた広告の打ち方を行なっています。NTTドコモが持つユーザーの位置情報とユーザーの属性を組み合わせ、時間帯・場所を指定して広告を配信する仕組み。ここから、広告主が求めるターゲット層に適切に配信することができます。

では、NTTドコモの持つ位置情報から持ってくる個人情報はどのような扱いになっているのでしょうか。日本経済新聞によれば、位置・性別・年齢の匿名データを利用しているといいます。

同記事ではこれ以上の言及はありませんでしたが、これら位置情報は個人情報に該当する場合があり、取り扱いについて言及する必要があります。

東京データプラットフォームの事例

東京都は、行政や民間の持つデータの流通基盤となる「東京データプラットフォーム(TDPF)」を目指しています。この取り組みは、データ利活用のニーズやデータ整備、流通段階における課題を整理しています。

2021年7月に第1回イベントが開催され、ぐるなび、東京大学エコノミックコンサルティング、Pacific Consultantsが参画。飲食店の混雑・予約データを活用した自動集客サービスや、駅利用圏ポテンシャルマップの展開などを行ないました。

東京都は、東京データプラットフォーム形成を目指すことで、都や民間企業が持つデータを組み合わせることで街の「見える化」を目指しています。

三井物産と KDDIが目指す仮想都市の事例

三井物産とKDDIは、ビッグデータを活用して人が移動する手段・時間・場所・目的を把握可能とする「次世代型都市シミュレーター」の共同開発を目指しています。

次世代型都市シミュレーターは、au契約者から同意を得て取得した位置情報や国勢調査などのビッグデータに、機械学習を組み合わせることで、AIが一人ひとりの移動を予測した上で地図に表示し、都市内の人の動きをモデル化するというものです。このモデルを活用することにより、従来の調査方法手法では見えてこなかった、人の移動の目的、手段、経路といった情報を可視化。これまでは数カ月かかっていた分析・予測の時間短縮を目指す方針とのことです。

KDDIと三井物産、位置情報とAIで都市計画を支援する「次世代型都市シミュレーター」を開発より引用

位置情報とはなにか

位置情報とはなにかという疑問が浮かぶと思います。なぜ個人情報に該当するのか。そもそも、位置情報とはどのように取得されているのか、理解しているようでできていない人も多いと思います。ここからは「位置情報とはなにか」について見ていきます。

そもそも位置情報とは、個人の位置を示す情報と定義することができます。ユーザーの位置情報を把握することでタクシー会社の場合はタクシーを配車することができ、レストランは近隣に住む住人に対してクーポンを配布するといったPR活動を行うことなどができます。

最近ではスマートフォン拡大を背景に、市場も活性化してきています。矢野経済研究所によれば、屋外位置情報や地図情報を活用した国内ビジネスの市場規模は2025年度に1900億円に達すると予測しています。2017年度は1165億8000万円だったことを考えると約1.6倍に市場が成長することとなります。

位置情報を取得する手段は、GPSやWi-Fi、携帯電話の基地局やビーコンなど、さまざまな方法があります。中でもGPSはスマホの拡大とともに、今では「誰でも」持っているものとなりました。

ここから得られる位置情報は、ユーザーのプライバシー侵害に配慮する必要のある「個人情報」に該当する場合があります。

位置情報の種類

では、位置情報はどのような種類があるのでしょうか。位置情報プライバシーレポートによれば、位置情報は「基地局に係る位置情報」「GPS位置情報」「Wi-Fi位置情報」の3つがあります。基地局に係る位置情報とは、携帯電話事業者が通話やメールなどの通信を成立させる前提で取得している情報のことです。

2つ目のGPS位置情報は、複数のGPS衛星から発信されている電波を携帯電話などの移動端末が受信して、衛星と移動体端末との距離から該当する端末の位置情報を取得する情報のこと。業者によっては個人情報として扱われることも多いが、基地局に係る位置情報よりは高いプライバシー性を持つとされています。

そして3つ目のWi-Fi位置情報は、Wi-Fiのアクセスポイントと移動体端末間の通信を位置情報の測位に応用することによって、ユーザーによるインターネット接続の前後を問わず取得される情報です。ユーザーがどのエリアにいるのか、アクセスポイント単位が数メートルと高い精度で把握することができるため、プライバシー情報に該当するのではないかという見方もあります。

総務省「緊急時等における位置情報の取扱いに関する検討会 報告書 位置情報プライバシーレポート 〜位置情報に関するプライバシーの適切な保護と社会的利活用の両立に向けて〜」

位置情報を活用する上での注意点とは

では、どのような点に注意して位置情報を利用していけばいいのでしょうか。ここからは、位置情報を利用する上での注意点を見ていきます。

位置情報の取扱いにはどのような配慮が必要なのか

そもそも、位置情報は個人情報に該当するのでしょうか。光和総合法律事務所の渡邊涼介弁護士著の『データ利活用とプライバシー・個人情報保護 最新の実務問題に対する解決事例108』によれば、位置情報は「現時点を含む個人の位置を特定できる情報であり、プライバシー侵害の危険性が高い」情報としています。そのため、これらの情報を利用するためには適切な匿名加工措置が必要だといいます。

この匿名加工情報とは「特定の個人を識別することができないように個人情報を加工し、当該個人情報を復元できないようにした情報のこと」(個人情報保護委員会)です。つまり名前や性別、住所などの個人情報を暗号化などの手法により加工し、第三者によって復元できないようにした、個人情報ではないデータということです。

この匿名加工情報は、2015年に成立・2017年に施行した改正個人情報保護法から含まれました。

個人データを匿名加工情報に加工する場合、「適切な加工」「安全管理措置」「公表義務」「識別行為の禁止」を守る必要があります。

匿名加工情報について詳しくは、下記ブログをご参照ください。

https://acompany.tech/blog/anonymously-processed-information/

位置情報に関する法的規制

位置情報は、通信の秘密に該当するのか、個人情報に該当するのか、プライバシー情報のみに該当するのかで法的な扱いが異なります。ここからは、該当する情報に対して第三者提供を行う場合、どのような点に注意する必要があるのか、先程の『データ利活用とプライバシー・個人情報保護 最新の実務問題に対する解決事例108』を参考に見ていきます。

①通信の秘密に係る位置情報

電気通信GL15条8項によれば、個別具体的かつ明確な同意が必要となっています。もし、包括同意による第三者提供を可能とするには、「十分な匿名化」をした上で、一定の要件を満たす必要があります。また、匿名加工情報として取り扱うことは不可となっています。

ここでいう十分な匿名化とは、電気通信事業者が扱う位置情報について、通信の秘密およびプライバシーの保護と社会的活用とを両立するため、位置情報と個別の通信とを紐付けることができないように加工する方法として考案された仕組みです。十分な匿名化に関しては「電気通信業における『十分な匿名化」に関するガイドライン」にて規定されており、docomoやau、softbankなどのキャリアのHPに掲載されています。

②個人情報に該当する位置情報

第三者提供を行う場合、原則として本人同意(包括的同意含む)が必要です。匿名加工情報の場合は本人の同意がなくても提供可能となっています。

③プライバシー情報に該当する位置情報

電気通信GL35条3項によれば、不当な権利侵害を防止するために必要な措置を講ずることが適当となっています。また、契約者情報または高精度の位置情報を利用する場合は、十分な匿名化に準じた水準まで加工することが望ましいとされています。

電気通信事業ガイドラインとは

個人情報保護法にもとづき、総務省は電気通信事業における個人情報の取り扱いに関して電気通信事業ガイドライン(電気通信GL)を定めています。同ガイドラインは、個人情報保護法委員会の個人情報の保護に関する法律と個人情報保護に関する法律についてのガイドライン(通則編他)との整合性を図りつつ、通信の秘密をはじめとする通信分野固有のルールを定めたものです。

総務省「電気通信事業における個人情報保護に関するガイドラインに向けた考え方(案)」

対象事業者は、電気通信事業者協会やテレコムサービス協会など電気通信個人情報保護推進センター団体構成員となっており、KDDIやNTT、ドフとバンクなどといった企業が該当します。

基盤となる個人情報保護法に基づき、電気通信事業者が参考にすべき電気通信GLですが、2022年4月の改正で見直しのタイミングとなっています。この改正を受けて総務省は、「電気通信事業における個人情報保護に関するガイドラインに向けた考え方(案)」を提示しました。

総務省「電気通信事業における個人情報保護に関するガイドラインに向けた考え方(案)」

ここでは、改正個人情報保護法における「定期保存データの保有個人データ化」や「漏えい等報告・本人通知の義務化」、「オプトアウト規定における第三者提供範囲の限定」などが、電気通信事業GL改正の方向性案で検討されています。

まとめ

  • 位置情報を利用したターゲティング広告事例は増加傾向にある。
  • 位置情報の活用は個人情報保護法を踏まえた上での取り扱いが必要である。
  • 位置情報に関する個人情報保護法に関しては、総務省が定める「電気通信事業ガイドライン」により定められている。

Acompanyでは、法律・技術の双方向からプライバシーデータの活用をサポートすることができます。プライバシーデータ活用に興味を持った方はぜひ、お気軽にお問い合わせください。

参考

渡邊涼介著『データ利活用とプライバシー・個人情報保護法 最新の実務問題に対する解決事例108

矢野経済研究所 位置・地図情報関連市場に関する調査を実施(2020年)

匿名加工情報について(個人情報保護委員会事務局 平成29年3月)

匿名加工情報制度について(個人情報保護委員会)

一目でわかる「電気通信事業における個人情報保護指針」ハンドブック