【ワナタベ先生に聞くシリーズ⑥】個人ブログやオウンドメディアも電気通信事業法の対象となる?事業者向けに「外部通信規律」について解説

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プライバシーテック研究所

ワタナベ先生こんにちは!

最近2023年6月施行の「改正電気通信事業法」をよく耳にするのですが、「今まで適用外だった企業も適用される?」みたいな話を聞いていて、ウチも対応しないといけないのではと心配です。

そこで今日は、この電気通信事業法の専門家でもあるワタナベ先生にこの法律について色々と教えていただきたいです!

プライバシーテック研究所ワタナベ先生

いいですよ!まずは、「電気通信事業法とは何か」からご説明していきましょうか。

電気通信事業法とは簡単にいうと、電気通信事業における規律について定めた法律です。目的については、同法第1条で「この法律は、電気通信事業の公共性にかんがみ、その運営を適正かつ合理的なものとするとともに、その公正な競争を促進することにより、電気通信役務の円滑な提供を確保するとともにその利用者の利益を保護し、もつて電気通信の健全な発達及び国民の利便の確保を図り、公共の福祉を増進することを目的とする」と記されていて、範囲はかなり広いです。ただし、これは電気通信事業者に対する法律なので、基本的に電気通信事業者以外は対象にならないことを抑えておくといいかと思います。 ただし、2023年6月に施行される改正電気通信事業法で導入された外部送信規律については、電気通信事業者ではない、いわゆる3号事業者も、対応が必要となりました。

今回は、企業は外部送信規律にどのように対応すればいいのかを中心に話していければと思います。

電気通信事業法とは

  • 電気通信事業における規律について定めた法律
  • 電気通信事業法の対象は基本的に「電気通信事業者」のみ
プライバシーテック研究所

なるほどなるほど…。

では次に、この電気通信事業法とセットでよく耳にする「通信の秘密」についても教えてください。

プライバシーテック研究所ワタナベ先生

おお!「通信の秘密」をご存知ですか。

この通信の秘密は、電気通信事業法第4条にて「電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密は、侵してはならない」と記されています。これに反した場合は刑事罰の対象となるので、そういう意味ではとても厳しい規律です。

考え方としては電気通信事業者が取り扱う通信を保護するというものですが、通信の秘密の侵害に該当するかは個別の判断が必要となります。

通信の秘密が問題になる例としては「携帯電話の通信内容が第三者に傍受されている場合」などが挙げられます。コミュニケーション手段を保護していくというのが基本的な考えです。そしてそれは会話の中身だけでなく「いつ、誰に電話をかけたか?」などの周辺事実も含まれ、実際に裁判例でも言及されています。

なお、憲法上にある「通信の秘密」との関連では、電気通信事業法以外にも郵便法や 信書法で「通信の秘密」が定められています。簡単に説明すると、憲法は国と国民の関係について定めているのに対し、電気通信事業法は事業者と利用者の関係について定めています。憲法上で記されている「通信の秘密」を受けて、電気通信事業を対象とした実務レベルに落とし込んだとイメージするのがいいのではないでしょうか。

また、根本的な部分になりますが、電気通信事業法における電気通信は同法第2条で「有線、無線その他の電磁的方式により、符号、音響又は影像を送り、伝え、又は受けることをいう」というように、かなり広義的に定義されています。

プライバシーテック研究所

ありがとうございます!

この電気通信事業法と通信の秘密を踏まえた上で、6月に施行される改正電気通信事業法の改正ポイントをわかりやすく教えてください。

プライバシーテック研究所ワタナベ先生

2023年6月改正のポイントは大きく2つあります。「特定利用者情報の追加」と「外部送信規律」です。

中でも多くの企業に関係する今回の改正点は外部送信規律になります。特定利用者情報に関する規律も重要ですがは、無料のサービスの場合には利用者数1,000万人以上、有料のサービスの場合には利用者数500万人以上の電気通信サービスなどごく一部の企業のみしか対象ではないためです。

さて、ここからは、外部送信規律について見ていきたいと思います。今回の外部送信規律の改正ですが、そもそものポイントとして、改正個人情報保護法が大きく影響しています。この改正個人情報保護法における第三者提供の制限は、利用者のデータを事業者が取得した上でそれを第三者に提供することを前提にしていました。ただし、事業者が利用者のデータを取得せずに、第三者が直接取得する場合に関しては、第三者提供の制限の対象外となります。

具体的な例としては、個人情報保護法のQ&A8-10で、わかりやすく説明されています。 例えばA社が自社のWebサイトにB社のタグを設置し、B社が当該タグを通じてA社Webサイトを閲覧したユーザーの閲覧履歴を取得しているとしましょう。この場合、A社がB社のタグにより収集される閲覧情報を取り扱っていないのであれば、A社がB社に閲覧履歴を「提供」したことにはならず、B社が直接にユーザーから閲覧履歴を取得したこととなると考えられます。つまりこの場合、A社は個人関連情報の第三者提供の制限(個人情報保護法31条)の対象外となるのです。

もっとも、ユーザーとしては、A社が直接取得する場合でも、自らの情報がどのように取り扱われるのか、透明性を高めてもらう必要があります。

6月に施行される改正電気通信事業法の改正ポイントは

  • 「特定利用者情報の追加」「外部送信規律」の2点
プライバシーテック研究所

今まで深く関係してこなかった事業者も関係してくる可能性があるということでしょうか?

プライバシーテック研究所ワタナベ先生

まずは電気通信事業法の対象となる、電気通信事業者について見ていきたいと思います。

電気通信事業者の定義に関しては、第二条にて「電気通信事業を営むことについて、第九条の登録を受けた者及び第十六条第一項の規定による届出をした者をいう」と記載されています。そのため、基本的には電気通信事業者は登録・届出を行なった事業者でした。ただし、3号事業者と呼ばれる登録・届出の必要のない電気通信事業者(電気通信事業法164条1項3号の適用対象である事業者)も存在しており、それらの事業者は検閲(同法3条)及び通信の秘密(同法4条)以外の規律は適用されませんでした。 しかし、今回の改正により、外部送信規律が追加されたというのがポイントとなり、電気通信事業者の定義は変わっていないものの、登録・届出の必要のない事業者に対しての規律が追加されました。なお、3号事業者にも「電気通信事業における個人情報の保護に関するガイドライン」が適用されることは、これまで通りです。

電気通信事業者とは

  • 電気通信事業を営むことについて、第九条の登録を受けた者及び第十六条第一項の規定による届出をした者をいう
プライバシーテック研究所

ありがとうございます。

話を戻したいのですが、そもそも電気通信事業法の改正はなぜおこなわれることとなったのでしょうか?

プライバシーテック研究所ワタナベ先生

利用者の情報が外部に送信される場合に、利用者に確認の機会をしっかり付与し、透明性を高める必要性が出てきたことが大きいでしょう。

先ほど話したように改正個人情報保護法のQ&Aによって第三者提供に関する事項が明記されていることもひとつのきっかけとなっています。 総務省が2023年1月20日に発表した「電気通信事業法施行規則等の一部改正について」では、「安心・安全で信頼できる通信サービス・ネットワークの確保」として「情報通信技術を活用したサービスの多様化やグローバル化に伴い、情報の漏えい・不適正な取扱い等のリスクが高まる中、事業者が保有するデータの適正な取扱いが一層必要不可欠となっている」と記載されています。

プライバシーテック研究所

自社が「外部通信規律」に該当するかどうかは、どのように確認するのがいいのでしょうか?

プライバシーテック研究所ワタナベ先生

一般的には電気通信役務を行っているかどうかを見ていくのがわかりやすいかと思います。電気通信役務の例は以下の4つです。

  • メッセージ媒介サービス
  • 「場」の提供(SNSなど)
  • 検索サービス
  • 各種情報のオンライン提供(ニュースサイト、まとめサイト等)

解釈が難しいのが各種情報のオンライン提供です。例えば「自社商品等のオンライン販売」や「企業等のホームページ・個人ブログ」によるホームページの運営は、電気通信事業に該当しないため、電気通信役務に当てはまりません。一方で、上記の様に、各種情報のオンライン提供(電気通信事業法施行規則の表現では、「不特定の利用者の求めに応じて情報を送信する機能を有する電気通信設備を他人の通信の用に供する電気通信役務であって、不特定の利用者による情報の閲覧に供することを目的とするもの」)に該当する電気通信役務を提供する電気通信事業者は、外部送信規律の対象になるとしています。判断にあたっては、総務省が公表している「外部通信規律に関するフローチャート」(後掲)がわかりやすいので、参考にしてください。

総務省「自分に関する情報が第三者に送信される場合、 自身で確認できるようになります。」より引用

もっとも、各種情報のオンライン提供に該当するかは難しい場合があります。この場合、「判断が難しい場合は該当する前提で対応するのがいい」というのが回答です。ただし、例えば個人ブログでも、アフィリエイトリンクや広告を掲載している場合は電気通信事業者の扱いになるので、外部送信規律に該当します。また、自社商品をオンライン販売する場合でも、それに合わせて他社の商品を販売する場合も対象内になる確率が高いと考えられます。そのため、やはり基本的には該当する前提で対応するのがいいでしょう。

プライバシーテック研究所

外部通信規律に該当した場合、事業者はどのような対応を実施しなければならないのでしょうか?

プライバシーテック研究所ワタナベ先生

「通知または公表」か「同意取得」「オプトアウト」のいずれかを実施しなければいけません。ただ、「同意取得」「オプトアウト」については、事実上「通知または公表」がされていることが前提となるので、一般的には「通知または公表」をすることになると思います。その場合は以下の3つの事項を通知または公表する必要があります。

総務省「自分に関する情報が第三者に送信される場合、 自身で確認できるようになります。」より引用

  1. 送信されることとなる利用者に関する情報の内容
  2. 1の情報を取り扱うこととなる者の氏名又は名称
  3. 1の情報の利用目的(電気通信役務の提供元及び送信先)

これまでの説明をまとめると、まず電気通信役務をしているのかどうかの確認に注意すべきです。そして自社のホームページ及びアプリから、どの事業者に外部送信しているかを確認する。ここまではマストで取り組まなければいけません。その上で、施行が2023年6月16日からなので、それまでに通知または公表の際にどのような表現で記述すべきかを検討する必要があるでしょう。

そして電気通信事業者の定義は変更ありませんが、電気通信事業者の登録が必要でなかった事業者に対する規律が増えました。そのため、これまで電気通信事業法に関心がなかった事業者も、同法に注意を向ける必要があるでしょう。

プライバシーテック研究所

現在、Acompany(プライバシーテック研究所の運営)では、「プライバシーテック研究所」を運営しています。このように「ブログを使って記事を配信する企業」にも影響はありますか?

 

プライバシーテック研究所ワタナベ先生

「プライバシーテック研究所」がキュレーションメディアだとする解釈でいくと、先ほど紹介した通り「不特定の利用者の求めに応じて情報を送信する機能を有する電気通信設備を他人の通信の用に供する電気通信役務であって、不特定の利用者による情報の閲覧に供することを目的とするもの(各種情報のオンライン提供)」に該当するため、外部通信規律の対象になると考えられます。総務省の公表したパブリックコメントでも、「その多くにおいては自社に関する情報又は自社の製品若しくはサービスに関する情報を提供するものの、一部においては関連する情報(業界団体、事業環境に係る情報や、業務提携先の企業に係る情報など)もあわせて提供する自社サイト」は、「他人の需要に応ずる」に該当するものとして判断される場合があるとしています。なお、広告配信をしている場合は、ほぼ例外なく外部送信規律の対象に該当します。

 

ただし電気通信事業者の登録・届出をする必要はないでしょう。先ほども紹介した通り、「通知または公表」で3つの項目をしっかり記載すれば問題ありません。また「通知または公表」の手段に関しては、ポップアップが推奨されています。文言に関しては「日本語での記載」「平易な表現を用いる」「専門用語は使わない」など、可能な限りわかりやすい表現を用いて、シンプルに記載すべきです。

総務省「自分に関する情報が第三者に送信される場合、 自身で確認できるようになります。」より引用

改正電気通信事業法に対する対応については、総務省が公表している改正後のガイドライン 解説(令和5年6月16日施行)を参考にするのが確実です。電気通信役務の対象範囲がかなり広いため、自社でホームページを開設している方は、ひとまずガイドラインを確認して、自社が該当するかどうかを確認するといいでしょう。

プライバシーテック研究所

ありがとうございます。一旦「プライバシーテック研究所」が今回の改正で該当しているのかどうか、株式会社Acompanyが電気通信事業者に該当しているのかどうか、確認してみますね。

プライバシーテック研究所ワタナベ先生

ぜひぜひ確認してみてください!