安全にデータ活用を!マルチパーティ計算(MPC)の事例を紹介!

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投稿者:編集部
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この記事では、実際のマルチパーティ計算(MPC)の実用例を紹介します。

はじめに

近年、様々な情報がデジタル上で管理されるようになり、企業は顧客に関する膨大な量の情報を取得できるようになりました。

そのため、これらの情報を活用しより顧客の利益につながるサービスを創出することが、企業に求められています。

しかし、そういった情報の中には、個人情報や、自社の利益と関連しているという理由から、社外に持ち出すことが自社の不利益につながるというものが存在します。

そこで最近では、情報を暗号化したままデータ分析を行うことができる技術としてマルチパーティ計算(MPC)が注目されています。

本記事では、実際にMPCを用いて企業や政府が取り組んできたいくつかの事例を紹介します。

マルチパーティ計算(MPC)とは

マルチパーティ計算(MPC)は、簡単に説明すると複数のサーバー間で通信を行いながら、同じ計算を同時に行うという仕組みです。

マルチパーティ計算(MPC)に関する詳細は、以下の記事で解説しています。

【超入門】秘密計算って何?図で概要をわかりやすく解説!

政府による就業状況調査

エストニアにおいて、マルチパーティ計算(MPC)を利用して、暗号化された所得税記録と高等教育記録を収集し、学位取得中に働いている学生かどうかを分析した事例があります。

この調査は、2013〜2015年に行われました。

この調査を行ったのは、1997年に設立され、セキュリティ関連のソリューション等に強みを持っている、CYBERNETICAというエストニアのIT企業です。

当時、エストニアにはIT系の大学生の卒業率が低下しているという問題がありました。これが大学在学時の就業と関係があるのではないかという仮説を検証するために本プロジェクトが実行されました。

このプロジェクトでは、エストニアの国税庁の持つ1,000万の納税データと、文部科学省の持つ60万の教育データを国民IDを突合して分析するためにマルチパーティ計算(MPC)を利用しました。

結論として両者のデータに相関は見られず、景気の停滞とともに卒業率は回復したとのことです。

上記プロジェクトによって、マルチパーティ計算(MPC)を使用することでデータの有用性を失うことなく、すべてのデータ保護および税務上の機密規制が遵守されることが保証されました。

マルチパーティ計算(MPC)を用いたCovid-19スクリーニング

スタンフォード、オックスフォード、ブロード研究所の科学者たちが、FeverIQから提供された360万件の匿名の健康データを、マルチパーティ計算(MPC)を活用してユーザーのプライバシーを損なうことなくCovid-19のスクリーニングを最適化する方法を実証したという事例があります。

Covid-19の検査をより効果的にするためには、症状、検査結果、勤務先や睡眠場所、親しい人の連絡先など、機密性の高い情報を取り扱うことが必要です。

つまり、プライバシーと健康診断の精度は常にトレードオフの関係にあり、精度の高い検査にはより多くのプライバシー情報を必要とするため、データ漏洩の危険が高まります。

しかし、今回の大学とFeverIQの研究では、Covid-19のスクリーニングとプライバシー保護の両立を実現しました。

この事例では、セキュアなマルチパーティ計算を用いた分析で、比較的高い精度のスクリーニング結果を出すことに成功しています。

NTTと農研機構が秘密計算技術で作物データ利活用を推進

NTTと農研機構は2020年10月末、秘密計算技術による作物ビッグデータ活用の共同研究を開始すると発表しました。

未活用のデータを利用し、作物ビッグデータを活用できる仕組みを構築することで、データ駆動型スマート農業の実現に向けた取り組みを加速させる狙いがあるようです。

NTTは秘密計算技術としてマルチパーティ計算(MPC)を採用していると発表しており、本件は新たなマルチパーティ計算(MPC)事例の一つと言えます。

両社は農研機構の異なる組織間で共有が困難なため活用されていないデータを、NTTの秘密計算技術を用いて、活用するための共同研究を開始しています。

共同研究ではNTTが秘密計算技術を活用した各種分析手法の評価、データを安全に利活用するノウハウを提供します。農研機構は各種作物データの分析手法および作物データ(サンプルデータ)の提供と秘密計算上での作物データ分析の役割を担っています。

将来的には共同研究の成果を生かし、農研機構が整備を進めている作物データや各組織が保有する作物データをもとに、世界最高水準の情報量を有する作物ビックデータと、それを用いた解析が可能となる安全かつ高度なデータ利活用のための解析エンジンを開発することを想定しています。

これにより、新品種の育成や営農を支援する情報システム開発とそれによる情報発信などを行い、作物データ利活用の活性化を目指しているようです。

Acomapnyの取り組み

2020年10月初旬に、弊社独自開発の秘密計算エンジンである「QuickMPC」を発表しました。

「QuickMPC」は従来のエンジンの本番環境での運用を想定していないためシステムの可搬性と一貫性が実現できていないという課題を解決する秘密計算エンジンです。

「QuickMPC」ではコンテナ技術を採用し開発することで、優れた可搬性と一貫性を達成しました。これにより、マルチパーティ計算(MPC)エンジンの構成をユーザーの要件に合わせて柔軟に設定可能としました。

現在は、「QuickMPC」を基にパートナー企業との実証実験、共同研究を推進しています。

「QuickMPC」は現在、位置情報やマーケティングデータ、医療機関が保有するデータといったユーザーのプライバシーを守る必要のあるデータの統合分析、機密データの解析業務支援などの領域での活用に取り組んでいます。

他にも、下記記事においてマルチパーティ計算での秘密計算を用いた事例の紹介を行っています。

【事例紹介】秘密計算技術はどんなことに使えるのか?

 

まとめ

近年、データ活用と、データ保護のためのセキュリティ、双方の重要性が高まってきています。

そうした背景の中、マルチパーティ計算(MPC)を用いて複数の組織間でそれぞれが手持ちの情報を隠し、セキュリティを保った状態でデータ解析を行う事例が複数存在しています。

  • マルチパーティ計算(MPC)を用いることによって、外部に出したくないデータを用いた解析を行えます。
  • 政府や企業が様々なケースにおいてマルチパーティ計算(MPC)を用いたデータ解析を行った事例が存在している。

参考

セミナー・イベント情報