ホーム » 法律 » 【用語解説】仮名加工情報とは

概要

新たなサービス開発やコストカットのため、データの利活用の重要性は高まってきている。中でも、購買履歴をはじめとする個人情報は、新規サービス創出等に向けて有意義なデータとなるため、収集・利活用されるケースが多い。

しかし、その一方で個人情報の漏えいに関する事件が相次いでいる。

2022年にはトヨタ自動車が契約者情報の一部が漏えいした可能性があると発表した。

顧客接点をもつ企業は同様に個人情報を収集することが想定されるため、個人情報の漏えいは業種や規模を問わない問題だといえる。

このように、個人情報の価値が注目されつつも、その取扱リスクは年々高まっている。 この個人情報を加工し、誰かわからなくすることによって安全性を保つ手段の一つとして仮名加工情報の利用が挙げられる。

本記事では、以下の点について仮名加工情報について簡素に解説する。

  • 仮名加工情報とは
  • 仮名加工情報の特徴
  • 他の情報との関係
  • 仮名加工情報の利活用ケース

仮名加工情報とは

仮名加工情報は、令和2年改正個人情報保護法より定義された概念であり、2022年4月から施行されている。

個人情報保護法において、仮名加工情報は以下のように定義されている。

第2条(第5項) この法律において「仮名加工情報」とは、(中略)他の情報と照合しない限り特定の個人を識別することができないように個人情報を加工して得られる個人に関する情報をいう。

つまり、個人情報を加工して他の情報と照合しない限りにおいては特定の個人を識別できないようにしたものが仮名加工情報に該当する。

仮名加工情報の特徴

仮名加工情報の特徴としては以下の3つが挙げられる

まず1つ目は、仮名加工情報とするで個人情報よりも規制が緩和される事項がある点だ。 主なものとして以下が挙げられる。

  • 利用目的の変更が可能である点
  • 漏えい等の報告義務の対象外となる点
  • 開示・利用停止等の請求対応の対象外となる点

上記の点においては、個人情報よりも使いやすくなったということができるだろう。

特に、利用目的の変更が可能となることにより、事業者においてはデータ利用のハードルが下がった。

2つ目は、個人情報に比べ制限される事項がある点だ。主なものは以下である。

  • 本人識別目的での照合行為の禁止
  • 第三者提供が原則禁止

仮名加工情報は、「他の情報と照合しない限りにおいては特定の個人を識別できないようにした」という定義にあるように、他の情報と照合することで本人識別が可能となる場合がある。

そのため、法第41条において本人識別目的での照合行為が禁止されている。また、第三者に仮名加工情報を提供することも禁止されている。これらは、仮名加工情報を取得した悪意者によって識別行為が行われるリスクがあるため、禁止されている。

3つ目は、仮名加工情報の中には、個人情報に該当するものとそうでないものが存在する点だ。この判断の基準となるのは、仮名加工情報と仮名加工前の個人情報との容易照合性の有無だ。

容易照合性とは、個人情報保護法のガイドラインにおいて「通常の業務における一般的な方法で、他の情報と容易に照合できる状態」と説明されている。

つまり、共通するIDなどによって加工後の仮名加工情報と個人情報とを結びつける状態にある場合には、容易照合性があると判断される。

例えば、自社内で個人情報に対する仮名加工を行い、加工前の個人情報も保持し続ける場合、その仮名加工情報は個人情報との容易照合性を持つことになる。この場合、仮名加工情報も個人情報に該当する。

一方、グループ企業などで親会社において仮名加工した情報を子会社に提供する場合、提供を受けた子会社内では元の個人情報と照合を行うことは難しく、容易照合性はないと判断される。この時、この仮名加工情報は個人情報でないと判断される。

以上が、仮名加工情報の大まかな3つの特徴である。

仮名加工情報は、規制の緩和にあたる利用目的の変更が可能である点が非常に有用である。この特徴を活かし、個人情報を仮名加工情報に加工した上で、AIを用いた学習を行うことなどが期待されている。

他の情報との関係性

仮名加工情報に似た概念として匿名加工情報が存在する。

仮名加工情報は、他の情報と照合しない限り特定の個人を識別できない。一方、匿名加工情報は、個人情報を加工して特定の個人を識別できないようにした情報を表す。つまり、元の個人情報へ復元可能か否かという点で大きくこれら2つの情報は異なっている。

従来から設けられていた匿名加工情報では、個人が識別できないよう高度な匿名化やそれによる情報の欠損が発生するため、詳細な分析を簡易に行うことが難しいという難点があった。

しかし、仮名加工情報であれば、匿名加工情報に比べ簡便に加工でき、なおかつ詳細な分析が可能となる点がメリットとなる。

その他、詳細な差異に関しては当ブログ別記事である「匿名加工情報と仮名加工情報の違いとは?にて解説しているため、興味ある方は参照されたい。

また、仮名加工情報の特徴や、他の情報との比較は下図に示されている。

(出典 : 「個人情報保護法令和2年改正及び令和3年改正案について」より引用)

仮名加工情報の利用ケース

仮名加工情報は、2022年4月の改正個人情報保護法より施行された。

三菱電機丸紅都市開発などの一部企業のHPでは、仮名加工情報を利用する旨が明記されている。

一方で、目立った仮名加工情報のユースケースは見られない。

そこで本記事では、個人情報保護委員会が公表する、「個人情報保護委員会事務局レポート : 仮名加工情報・匿名加工情報 信頼ある個人情報の利活用に向けて-事例編-」より、仮名加工情報のユースケースとして想定されている事例を簡単に紹介する。

1. 事業者が利用目的を変更する事例

本事例は、食品のオンライン通信販売事業を行う事業者Aが、オンライン通信販売事業に関連した取得していた個人情報から仮名加工情報を作成し、利用目的を変更して利用することが想定されている。

状況として事業者Aは、新規事業として新たに実店舗事業を計画している。この事業計画において、既にオンライン通信販売事業で取得している個人情報を仮名加工情報に加工した後に分析し、どの地域でどのような顧客層(年代・性別)がどのような商品に関心を有しているのかを分析し、出店計画の検討材料とすることが考えられている。

2. 事業者が持つ仮名加工情報の同一人物ごとに突合して利用する事例

本事例は、実店舗とオンライン通信販売事業を行う事業者Bが、実店舗のポイントカードとオンライン通信事業のそれぞれに関連して取得していた個人情報を、仮名加工情報に加工した後に利用目的を変更して、同一の人物ごとに突合して分析することが想定されている。

状況として事業者Bは、実店舗とオンライン通信販売を顧客がどのように使い分けているのかを、それぞれのデータから分析し、より効率的な促進戦略を構築することが考えられている。

まとめ

  • 仮名加工情報とは、個人情報を加工して他の情報と照合しない限り特定の個人を識別できないようにしたものである。
  • 仮名加工情報とすることで、個人情報に比べて規制が緩和される面や、逆に厳しくなる面が存在する。
  • 仮名加工情報は令和2年改正個人情報保護法にて新たに導入され、企業のHPにおいて利用の旨が公表されているケースも存在する。

参考

TOYOTA お客様のメールアドレス等の漏洩可能性に関するお詫びとお知らせについて

個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)

個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(仮名加工情報・匿名加工情報)

個人情報保護委員会事務局レポート : 仮名加工情報・匿名加工情報 信頼ある個人情報の利活用に向けて-事例編-

個人情報保護委員会事務局レポート : 仮名加工情報・匿名加工情報 信頼ある個人情報の利活用に向けて-制度編-

個人情報保護法令和2年改正及び令和3年改正案について

三菱電機 仮名加工情報

丸紅都市開発 個人情報保護方針