この記事では、秘密計算市場の今後の推移を、国内外のAIなどのデータ解析やデータ保護の市場動向、秘密計算に関する企業の動きから考察します。
はじめに
近年、世の中のIoT化が進み、商品やサービスを提供する企業達はユーザーの様々なデータが取得できるようになりました。そして、これらユーザーのデータを分析することで、新規商品やサービスの開発など、新たな価値が創造されています。
それと同時に、解析対象となるデータや、解析結果を保護するためのセキュリティへの関心も高まり、データ保護市場の動きも活発になっています。
そのため、データを解析すること、そしてデータを保護することに関連したビジネスが非常に盛り上がっています。
国内BDAテクノロジー/サービス市場市場
IT専門調査会社である、IDC Japan株式会社が2020年6月にBDA(Big Data Analytics)テクノロジー/サービス市場の市場調査・市場規模予測を発表しました。
この調査によると、2019年の国内BDA市場規模は前年比10.0%増で1兆799億5,100万円になったと推測されています。
また、同市場においても新型コロナウイルス感染症の流行は避けられず、2020年、2021年は一時的に成長が鈍化すると予測しています。
この結果、2019年から2024年にかけての年間平均成長率は11.7%となり、2024年の市場規模は1兆8,765億7,400万円になると予測しています。
国内BDAテクノロジー/サービス市場 支出額予測2019年~2024年

(引用:https://www.idc.com/getdoc.jsp?containerId=prJPJ46435220)
国内AIシステム市場
IDC Japan 株式会社が2020年6月に国内AIシステム市場調査・市場予測を発表しています。
この調査によると、2019年の国内AIシステム市場規模は818億4,400万円であり、前年比成長率は**56.0%**です。このような結果になった原因をIDC Japanは以下のように分析しています。
- 多くの企業でAIに関する複数の利用を目的とした実証実験(POC)や実利用へのプロジェクトが数多く実施されたこと
- AIシステム市場の57.0%を占めるサービス市場が前年比で59.5%増加したこと
- ソフトウェア市場がAI機能が組み込まれているAIアプリケーションの需要の増加によって52.5%増となったこと
- ハードウェア市場がAIの学習や推論の実行に不可欠な高性能コンピュータの需要の高まりによって51.1%増と好調に推移したこと
IDC Japanは、2020年の国内AIシステム市場は、前年比43.2%増の1172億1,200万円になると予測しています。この予想には、2020年3月時点での新型コロナウイルスの影響も含まれています。
国内AIシステム市場 支出額予測:2019年~2024年

(引用:https://www.idc.com/getdoc.jsp?containerId=prJPJ46395520)
国内のデータ保護市場
IDC Japan株式会社は、日本国内の情報ガバナンス/コンプライアンス市場の2020年から2024年までの予測を発表しました。
この調査によると、日本国内の情報ガバナンス/コンプライアンス市場規模は、2019年の440億円から2024年には498億円に拡大すると予想されています。
また、2020年から2024年までの年間平均成長率は2.5%と予想されています。
情報ガバナンス/コンプライアンス市場の一部である、暗号化/鍵管理市場は、大規模な情報漏洩事件によってデータ侵害への危機意識が高まっている影響を受けています。これによってデータ侵害に対するガバナンス強化への対策需要として市場が拡大してきています。
また、以下の要因から、情報ガバナンス/コンプライアンス市場全体が拡大する可能性があることも指摘されています。
- 新型コロナウイルス感染症の感染拡大によるリモートワークの普及に伴う、データ保護
- EU一般データ保護規則やアメリカカリフォルニア州消費者プライバシー法、個人情報保護法改正法案可決による、プライバシーデータへの法規制強化
- 2021年の東京オリンピック/パラリンピックでのサイバー攻撃による情報漏洩リスク
世界中で期待されるビッグデータ解析市場
ここからは、世界規模でのデータ解析市場を紹介します。
リサーチステーション合同会社が2020年4月に発表したレポートによると、ビッグデータの世界市場規模は2020年の推計1389億ドルから、2025年段階では2294億ドルに達すると予測されています。
また、IDC Japanは、2022年に全世界におけるBDAの支出額は2,743億ドルになり、2018年から2022年までの5年間の平均成長率は13.2%になるという予測を発表しています。
このように、世界規模であっても今後ビッグデータ解析が注目され、複数の調査機関の調査結果を比較しても、その市場は今後も成長し続けていくと予想されていることがわかります。
世界のデータ保護市場
2019年に発表されたVerified Market Researchによると、世界のデータ保護市場は、2019年に7731万ドルであると予測されています。また、2027年には2億5752万ドルにまで成長すると予測され、平均成長率は15.67%になると予測されています。
業界別のグローバルデータ保護市場

(引用:https://www.verifiedmarketresearch.com/product/data-protection-market/)
秘密計算に取り組む企業
事実として、世界中の様々な企業が秘密計算に注目して技術開発を行っています。
秘密計算を用いた有名な事例として、2008年のデンマークの研究者がデンマーク政府や利害関係者と協力して甜菜(ビート)という砂糖の原料になる植物の生産契約のためにセキュアオークションを開催した、というものがあります。
こちらの詳細に関しては、以下の記事で解説しています。
http://acompany.tech/blog/case-study-secure-computing/
なお、現段階で秘密計算に取り組んでいる企業に関しては以下の記事で紹介しています。
http://acompany.tech/blog/companies-work-on-multi-party-computation/
秘密計算技術に注目する企業
秘密計算の手法の一つであるMPCの研究と普及を目的とした団体、MPCアライアンスの参加企業が2020年の1年間で3倍に増えています。この事実は、秘密計算に対する関心の高まりを表している出来事と言えます。
MPCアライアンスが注目されている理由に関しては、以下の記事にて説明しています。
http://acompany.tech/blog/why-mpc-alliance-attracts-attention/
秘密計算市場は今後どのように推移するか
ここまでの話を整理します。
- 2019年の国内BDA市場規模は前年比10.0%増で1兆799億5,100万円になったと予測されている。
- 2019年の国内AIシステム市場規模は前年比56.0%増で818億4,400万円である。
- 2019年の日本国内の情報ガバナンス/コンプライアンス市場規模は440億円であり、2020年から2024年までの年間平均成長率は2.5%である。
- 2020~2025年の期間での、世界市場規模でのビッグデータの年間平均成長率は13%であると予測されている。
- 世界のデータ保護市場規模は、2019年に7731万ドルであり、平均成長率は15.67%になると予測されている。
- 世界中の様々な企業が秘密計算に関する技術開発を行っている。
- 秘密計算の手法に注目している団体への加盟数が2020年の1年間で3倍に増加している。
以上を踏まえると、秘密計算市場は今後拡大する動きをとるのではないか、と考えることができます。