秘密計算研究会とは?

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投稿者:編集部
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はじめに

昨今、DX(デジタルトランスフォーメーション)の進展により、データ活用への取り組みが盛んになっています。

一方で、個人情報のようなセンシティブな情報が流出することは、ユーザー・企業の双方に甚大な被害を与えるため、データ活用への取り組みは慎重に進めなければなりません。

また、EUのGDPRやアメリカ・カリフォルニア州のCCPAに見られるように、個人情報を守る規制強化も進んでいます。

こうしたデータ活用に関する問題を取り除くために注目されているのが、秘密計算技術です。

秘密計算については以下の記事で詳しく解説しています。

http://acompany.tech/blog/secure_computing/

2021年2月18日、デジタルガレージ、NEC、レピダムの3社が、秘密計算技術の普及を目的とした会議として「秘密計算研究会」を発足したことを発表しました。

本記事では、秘密計算研究会について、以下の2つのセクションに分けて解説します。

  • 秘密計算研究会とは
  • 秘密計算コンソーシアムとの違い
  • 第1回秘密計算研究会に参加した企業の、秘密計算に関連する取り組み

秘密計算研究会とは

秘密計算研究会は、秘密計算技術の普及を目的として発足した会議です。

秘密分散+MPC方式や準同型暗号方式など、秘密計算を実現するためのアプローチ・手法は複数存在し、それぞれ独自に研究開発が進められてきました。

しかしそのために、手法に依らない、秘密計算全般に関する俯瞰的な議論がなされず、安全性や性能の基準や指標についての検討がなされてきませんでした。

その結果、秘密計算技術を活用したいユーザーにとって、適切な手法を選択することが難しく、社会実装の妨げとなっています。

こうした課題を解決し、

  • 秘密計算技術の社会実装の推進
  • クラウドサービスのデータ保護に対する不安の払しょく
  • 組織間データ活用による新たな価値創出

等を目的として、秘密計算研究会は発足しました。

そのための活動内容は

様々な秘密計算⽅式を俯瞰した実⽤的かつ客観的な安全性基準や、ユーザが秘密計算を活⽤する際の参考となる指針の検討 ・ホームページやイベントを通じた、上記基準や指針の検討状況、⽅式の性能などに関する技術資料や先端事例の情報発信

となっており、秘密計算技術への理解促進や、社会実装のための積極的な情報公開を進めていくことがわかります。

(引用元: https://secure-computation.jp/document/20210218.pdf

 

第1回は2020年12月~2021年2月の間に計3回、オンラインで開催されました。

また、参加者は上記の3企業に加え、招待講演者として、秘密計算システムの開発・研究をしているNTTセキュアプラットフォーム研究所の菊池亮氏、五⼗嵐⼤氏、⾼橋克⺒氏が参加しました。

秘密計算コンソーシアムとの違い

秘密計算に関連するコミュニティとして、秘密計算研究会とは別に、秘密計算コンソーシアムがあります。秘密計算コンソーシアムは、2021年6月に設立された、秘密計算を中心とした、プライバシーテックに関連する情報発信およびイベント開催を行うコミュニティです。当記事で紹介している秘密計算研究会が研究開発寄りのコミュニティである一方で、秘密計算コンソーシアムはビジネスシーンでのユースケースに重きを置いたコミュニティです。詳細は以下の記事で紹介しています。

https://acompany.tech/blog/secure-computing-consortium/

https://securecomputing.jp/

第1回に参加した企業の、秘密計算に関連する取り組み

初回参加者であるデジタルガレージ、NEC、レピダムは、それぞれ、次のような秘密計算への取り組みを行なっていています。

  • NEC:秘密計算方式の整理・安全性評価基準の提案など、技術面での貢献
  • デジタルガレージ・レピダム:秘密計算の事業化推進など、ユーザーである事業者視点での貢献

NECの取り組み

NECは、秘密分散という手法を用いる秘密計算分野において、世界を主導してきました。

2016年にNECは、従来の処理レベルを大幅に改善する技術を論文発表しました。

実際にこの技術では、従来、約9万が限界だった処理スループットを約130万に引き上げることを可能にします。 そして、この論文が評価され、セキュリティ分野における世界最高レベルの国際会議であるACM Computer and Communications Security 2016 でBest Paperを獲得しました。

そのほかにも、秘密計算サーバの異常や不正を検知する独自技術を保有し、こちらも同様の国際会議で採択されるなど、高い技術力が認められています。

また、2019年には大阪大学と共同で、秘密計算を用いたゲノム情報の解析を実証しています。

デジタルガレージの取り組み

デジタルガレージは、価格コム・食べログ・Twitter日本事業など、インターネット黎明期より、日本を代表するビジネスを支援しており、マーケティング・金融・情報技術の三分野を強みとしてビジネスを展開しています。

2021年初めには、GDPRやCCPAなど欧米の厳しいプライバシー規制に準拠したデータプラットフォームを保有する1plusXと資本業務提携を締結しました。

1plusXが保有するデータプラットフォームは、サードパーティクッキーを利用せずに顧客データの分析やコンテンツ分析、ターゲティングが可能であり、欧州を中心に利用が拡大しています。

この資本業務提携に見られるように、デジタルガレージは、ユーザーのプライバシー保護意識の高まりや規制の強化を背景に、ポストcookie時代を見据え、プライバシーに配慮しつつ、適切なターゲットに広告を届ける次世代型広告プラットフォームの普及を推進しています。

レピダムの秘密計算への取り組み

レピダムは、最新のインターネット技術や暗号技術、AI・機械学習に強みを持ち、研究開発支援・コンサルティング・ソフトウェア開発を行っています。

現在は、株式会社オハコ、株式会社ツードッグスと統合し、株式会社インフォーズの事業部として存続しています。

Society5.0に向けて活用が期待される、セキュアAIなどのセキュリティ技術を活用し、クライアントのさまざまな課題や要望に対して、実現可能性を考慮した最適な技術の提案や課題解決を行っています。

まとめ

世界的なデータ活用のトレンドは日本にも押し寄せている一方で、ユーザーのプライバシー保護への懸念や、規制を求める声も同時に高まっています。

秘密計算はこのジレンマを解決する高い可能性を持つ技術です。

その普及のための会議が発足したことは、今後のデータ活用社会の明るい未来へとつながるでしょう。

以下が本記事のまとめです。

  • 秘密計算研究会が発足した
    • 積極的な情報開示を通して、秘密計算へ理解促進とその普及を目的としたものである
      • 事業者が秘密計算を活⽤する際の参考となる指針の検討を進める
    • 秘密計算コンソーシアムがビジネス寄りであるのに対して、秘密計算研究会は研究・開発寄りのコミュニティである。
    • 第1回には、デジタルガレージ・NEC・レピダムの3社が参加した
      • NECは技術面で貢献
      • デジタルガレージ・レピダムは事業者側視点で貢献

参考