監視ソフトウェアは従業員のプライバシーを侵害する?メリットとデメリットを紹介

2022.07.20

はじめに

新型コロナウイルス拡大により、多くの人々がリモートワークを体験することになった。従来のテクノロジーでもリモートワークは実現できていたが、コロナ禍の影響で、半強制的にリモートワークに転換せざるを得なくなったのだ。

そしてそれに伴い、「リモートワークの環境でもしっかり働いているのか」という名目で、監視ツールの普及も進められた。だがこれは、プライバシー保護の観点で、正しい判断だといえるのだろうか。

本記事では、今一度、従業員監視ツールについて整理してみようと思う。どれくらい監視できるのか、監視ツールの問題点について深掘りしていきたいと思う。

コロナ禍によるリモートワークの普及に伴い、監視ツールも普及

ここで一旦、監視ツールの普及の流れについて、おさらいしてみようと思う。

まず、2020年4月7日、政府が緊急事態宣言を発令した。これにより、日本国民は新型コロナウイルス拡散防止のために、不要不急の外出を控えることになった。

不要不急の定義については、いくつか議論にもなったのが記憶に新しい。ただ、通勤ラッシュの感染リスクが非常に高いということで、ホワイトカラーの従業員は基本的にリモートワークとなった。

リモートワーク開始当初は、どのように業務を進め、どのように勤怠を管理するかで、各社の中で議論になったことだろう。そしてその解決方法の1つが、監視ツールだった。監視ツールを活用できれば、勤怠を管理できる上、生産性もそれなりに維持できるだろうという意見があったからだ。

この背景には、リモートワークの普及によって、会社に来てただパソコンをイジって時間を潰す人、いわゆる「フリーライダー」の顕在化がある。これに危機感を感じた経営陣が、生産性を維持するために、監視ツールを導入したと考えられる。

そして、新型コロナウイルス騒動が一旦落ち着いた現在は、リモートワークを継続する企業とそうでない企業でハッキリと分かれた。とはいえ、リモートワークを採用する企業は、コロナ禍以前より明らかに増えている。

実際に、大手市場分析会社のMarket Research Future(ニューヨーク)の市場分析によれば、従業員監視ソリューションは市場は、年平均成長率25.4%を記録し、2028年までに市場規模は最大68億4,000万米ドルに達すると予測されている。

どれくらい監視できるものなのか

しかし、監視ツールといったものの、どれくらい監視できるものなのだろうか。これについては、ワシントンポストの「Here are all the ways your boss can legally monitor you」を参照してみようと思う。

技術的に従業員の全てを監視することが可能だ。メール、ブラウザ、アクティビティ、どれだけサボっているのか、そして家族のプライベートまで監視することができる。そのほかにも、監視ツールを提供する企業と監視ツールを導入する経営陣が、どのようにガードレールを設けるのかで全てが決まってくる。

少し具体的に見てみよう。

まず、メール、チャットツールについてはイメージしやすいかと思う。GoogleとMicrosoftによれば、GmailやOutlookを利用している場合、管理者は従業員の全てのメール履歴を監視することが可能だという。また、電子メールの文面から、悪口、上司に対する愚痴、転職サイトへのアクセスなどを察知できるとのことだ。

そしてこれはチャットツールでも同じことが言える。最近は、リモートワークのストレスを解消するために、雑談専用チャンネルを設ける企業も増えてきた。しかし管理者は、そういった会話も閲覧・抽出することが可能だ。ついつい気を抜いて、チャットツール上で自分の全てをさらけ出すのは大きなリスクになるかもしれない。

アクティビティに関して言えば、ブラウザの閲覧履歴や滞在時間を監視することが可能だ。それに加え、キーボードやマウスからデータを収集することも可能だという。例えば、タイピングスピードなどのデータを元に、生産性を数値化することができるのだ。

そして、PCに搭載されているマイクやカメラからもデータを収集することが可能だ。これによって、従業員の家族の会話などのデータを監視することができる。

ちなみに、NBCニュースの報道によれば、多国籍コールセンター企業のTeleperformance(パリ)が、コロンビア従業員に自宅にカメラを設置することを認める契約書のサインを迫ったことが話題になった。それだけでなく、スマートフォンの専用アプリから、従業員の位置情報をリアルタイムで上司に送信しているのだという。

このように、技術的には従業員の全てを監視できることが分かると思う。あとは従業員のプライバシーをどれだけ考慮した設計にするかどうかなのだ。

実際、監視を部分的に制限することは可能なようだ。例えば、先ほどのメールの話で言えば、ブラウザからアクセスした際のEメールを監視できないように制限することが可能だ。これであれば従業員は、業務中に家族に連絡したい際は、ブラウザからアカウントにアクセスすればいい。

監視ツールを導入する意味は本当にあるのか?

ところで、監視ツールを導入する意味は本当にあるのだろうか。

まず前提として、監視ツールが導入された背景には、「従業員がちゃんと働いているのか監視するため」という理由があると考えられる。たしかに、リモートワークで上司がいないことをいいことに、仕事をサボり続けているのであれば、それは問題かもしれない。

だが、仕事をサボり続けていても、ちゃんとした成果を示しているのであれば、話が変わってくる。むしろ、少ない時間できっちり仕事している点を評価するべきだろう。

ここで改めて、監視ツールを導入する必要性を考える必要がある。「従業員がちゃんと働いているのかを監視すること」が、仕事の生産性向上に繋がるのだろうか。むしろ、仕事をサボるために短時間で仕事を終わらせる人間の方が優秀なのではないだろうか。

これについては、よく言われている話ではあるが、「日本の労働時間長すぎ問題」が背景にあるだろう。海外では成果主義が中心だと言われているが、成果主義は、どんなに労働時間が短くても長くても、どれだけ成果を出せるかで報酬が決まる。

一方、日本国内では、労働時間によって報酬が決まることがほとんどだ。そのため、成果を出せる人間ではなく、オフィスに出社している人間や夜遅くまで残業している人間が評価される仕組みになってしまっている。

もちろん、例外もある。例えば、労働時間が成果に結びつく職種であれば、監視ツールを採用するメリットが多少はあるだろう。工場で監視ツールを採用すれば、効率性向上のためのヒントが見つかる可能性もある。

しかし、ホワイトカラー層の大半は、監視ツールを採用するメリットがほとんどないように思える。それよりも、監視ツール導入によるデメリットの方が大きいのではないだろうか。

監視ツール導入の懸念点

監視ツール導入に際して気にすべき点は「従業員のプライバシー侵害」「従業員の士気低下による生産性低下」、そして「ハラスメントの助長」の3つが考えられる。

従業員のプライバシー侵害

先ほども説明した通り、監視ツールの導入によって、従業員のプライバシーが侵害される恐れがある。

従来であれば、従業員はオフィスに出社して仕事をするので、家庭関連の情報が漏れることは基本的になかった。しかしリモートワークの場合、多くの従業員は自宅で仕事をすることになる。その場合、同居している家族の情報や、どのような生活スタイルなのかが筒抜けになってしまう可能性があるのだ。

また、会社から貸与されているPCであれば問題ないが、公私混同でPCを利用している場合、プライベートにおけるインターネット関連情報が筒抜けになる可能性がある。具体的には、ブラウザの検索履歴や連絡先、オンラインバンクの口座情報などだ。

また、近年はグローバルレベルでプライバシー保護の声が強まっていることはしっかり理解するべきだろう。それに加え、リモートワークが普及したことで、世界中から従業員を獲得できるようになっている。それで日本の個人情報保護法と同じような対処をしてしまうと、各国のプライバシー法に触れる可能性もある。

雇用主がもし監視ツールを導入するのであれば、従業員のプライバシーを保護できるように、一定以上の配慮をする必要があるだろう。

従業員の士気低下による生産性低下

リモートワーカーを対象にしたある調査によれば、リモートワーカーの56%が雇用主に監視されることにストレスを感じており、41%が常に監視されているのではないかと不安に思っているとのことだ。このような心理的影響は、仕事の生産性に直結するのは言うまでもない。場合によってはうつ病の発症率を高めるリスクもある。

このように、監視ツールを導入することによって生産性が低下してしまえば元も子もない。

だが、これについては「監視ツールを導入しなければいい」という問題でもない。そもそも、リモートワークの普及によって、孤独感を感じる従業員が増えているためだ。従来のように、オフィスに出社して、仲間と共に仕事しつつ、時には他愛もない会話をして、仕事終わりに食事にでかける、というような充実した1日が送れなくなってきている。

けれどもその一方で、オフィス出社を命じれば「満員列車が憂鬱だ」「ロケーションフリーで仕事がしたい」という声が挙がってくる。中々難しい問題だ。

これについては、「働き方の在り方」という壮大なスケールでの問題になってくるだろう。

監視ツール導入のメリット

ここまで監視ツールの悪い側面ばかりを紹介してきたので、最後は、監視ツール導入の良い側面を紹介したいと思う。

まず、監視ツールを活用することで、従業員のメンタルヘルスを確認できるメリットがある。先ほどは監視ツールの導入によって、ストレスを抱える可能性があることを指摘した。しかし中には、従業員自身が気づかないストレスというのも存在している。そういったストレスが生産性という形で反映されるのだとすれば、雇用主は生産性の低下を基準に、従業員に休暇を与えることができる。つまり、監視ツールの導入によって、燃え尽き症候群やうつ病の兆候を察知できる可能性がある。これは従業員にとってもメリットになるかもしれない。

また、監視ツールを導入する代わりに、働く場所や勤務時間帯を自由にする権利を従業員に与えるのもいいかもしれない。やはり雇用主としては、従業員を完全にフリーにさせるのはリスクがある。急に転職する可能性や、仕事の横流しをされる可能性があるからだ。

監視ツールが導入されるとはいえ、「オフィス出社で決められた時間に働くよりはマシだ!」と考える人は一定数いるだろう。そういった人々の中から優秀な人材を見つけられるのもメリットかもしれない。

監視ツールが良いか悪いかは、やはり使い方次第ということになりそうだ。

まとめ

  • 監視ツールを導入しても生産性が保たれるわけではない
  • 監視ツールは従業員のプライバシーを大きく侵害する可能性がある
  • 監視ツールを活用することで、従業員のメンタルヘルス悪化の兆候を察知できる
  • 監視ツールは使い方によって良し悪しが決まる

参考文献

テレワーク中にサボっていないか、日本企業が従業員を熱心に監視してしまう理由

在宅勤務 監視ソフトウェア、需要増で過剰な監視が横行:「会社への信頼が完全に損なわれた」Here are all the ways your boss can legally monitor you